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「雨ってキライ」
しとしと降る雨がガラスにつくのを見て彼女は不機嫌そうに呟いた。何ヵ月ぶりの遊園地デートはこの雨のせいで また今度 になったからだ。今度がいつになるのか彼女は聞かないし、もし聞かれたとして俺も言えない。彼女はその赤い唇をただ噛み締める。
「俺は結構好き」
「どうして?」
どうして? 彼女の言葉に意地悪く微笑めば、バツが悪そうに口をつぐんだ。
聞けばなんでも答えてもらえると思うな。簡単に言葉にできないこともあることもわからないような世間知らずの馬鹿に見えるだろ。これは、幼き彼女に言ったお説教のひとつ。ただの痩せっぽっちの粗末なチビを拾ったのはもう何年も前の昔。それが今じゃ外見だけはいっぱしの女になった。俺の恋人という立派な肩書きつきの。
「雨じゃなくても中止してたよ」
「どう、…遊園地好きじゃないの?」
「好きでも嫌いでもない。何回も来たことあるし。」
「ずるい!私一回も言ったことないのに!」
「ずるいって…お前…」
ああ、なるほど。それでこんな格好をしてきたわけだ。半ば呆れながらベビーピンクのチュールスカートをつまみ上げると真っ赤な顔をして名前は声を上げる。
「やめて!」
「こんなん履いてジェットコースターに乗る気だったくせに」
「……あ」
「あ、じゃねーよ。アホ」
どこがいっぱしの女だ。ガキのまんま。体が成長しただけ余計にたちが悪い。よく見れば薄く化粧もされていて、いつもより白い肌に潤った唇は男を誘う。そう思うと、気が気でない。心配性なだけだろうか。独占欲が強すぎるのだろうか。
「綱吉?信号青…」
「ああ」
横から覗きこむ表情が、俺を見つめる目が、どうかこの先も彼女を手離す運命にありませんように。アクセルを踏むと、頬に柔らかい感触を感じて、彼女の忍び笑いと少し染まった頬。可愛いと思ってしまう俺の煩悩を雨が打ち消すように強く降る。
「赤信号になったら、」
「何してほしいんだ?」
「ふふ、雨もたまにはいいね」