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たった2つの年の差なんて学校を卒業してしまえば気にはならない、と思う。大事なのは彼を好きだって気持ちで、年齢と恋愛するわけじゃないんだから。それに恋は少しぐらい障害があったほうが燃えるって言うじゃん!と目の前の友人に熱弁すると、とりあえず落ち着きなさいよ、とクールにあしらわれた。勢いあまってぎゅっと固く握っていた拳を開き、腰を下ろす。



「でもさ、相手は中学生だよ?義務教育だよ、犯罪でしょ」
「もうすぐ高校生だもん」
「てか、何もできないじゃん」
「何もって?」
「修旅とか一緒に行けないじゃん。あ、その忍足くん?がこっちの高校受験したら1年は一緒にいられるのか」
「…たぶんエスカレーターでそのままだと…思います…」
「テニス一直線だもんね」



別に悲しくなんかないやい…。ずずーっとストローを吸うと、オレンジの酸っぱさに少しむせた。同じ学校じゃないし、忍足くんはテニスに一生懸命だから会える時間はほとんどない。でもわたしは一生懸命な忍足くんが好きだからいいんだ。……少しさびしいけど



「自然消滅の典型的なパターンだな、こりゃ」
「しっ自然消滅?!」
「ちょっと、いきなり大声出さないでよ。目立つじゃん」
「そんなのやだ!!!」
「いや私に言われても…、座れって」



自然消滅…、って別れるってこと?!そんなの嫌だ、確かに先週も会ってないし今週も会えるかわかんないしメールもあんまり返ってこないし電話もめったにしないけど…!



「どっどうしよう!?」
「会いに行けばいいじゃん」
「え?!」
「待ってないでたまにはあんたから行けば。会って押し倒してきなよ」
「お、おし…!まだキスもしてないのに!」
「じゃあついでにキスもしてこい。あんたも中学生みたいだわ」



しっしと手で行けと促されて、お店を出ると友人の彼氏が反対側のドアから出てきて友人のところに行くのが見えた。なるほど、彼氏さんが来るからわたしを追い出したのか。友人の彼氏は同じ学校で同じ年だからすぐ会える。少しうらやましい
あと二年遅れてわたしが生まれたら忍足くんと同じ学校で、もしかしたら同じクラスにもなれて、マネージャーにもなれて、体育祭も文化祭も修旅も一緒に楽しめたのかもしれないと思うことは何度もあった。放課後デートしてる人たちを見てうらやましく思うことも何度もある。ないものねだりだってわかってるんだけど。それに、忍足くんはかっこいいし優しいから中学校でもすごいモテるんだろうな、なんか嫌だなぁ。同じ年だったらもっと一緒にいられるのに…。ぽろっとこぼれそうになった涙を上を向いてこらえた。…よしっ、会いに行こう。時間がないならこっちから行けばいいんだ!







「(氷帝ってこんな広いの…?)」



迷った。完璧に迷った。無事着いたものはいいけど、テニスコートにたどり着けない。っていうか中学校ってまだ授業中…?うろうろとさ迷っていると後ろから肩を叩かれた。



「ひっ」
「あ、やっぱりなまえやん。何してん、こないなとこで」
「お、忍足くん…」



驚いた顔をしている忍足くんを見て少しほっとする。会えたの、何日ぶりだろ…



「あ、あのね!わた
「忍足くーん!!」



わたしの後ろから小さい女の子が忍足くんの名前を呼んで、こっちに走ってくる。…かわいい



「ノート提出!忍足くんだけまだなの!」
「おお、すまん」
「全くもう、…お姉さん?」



ちくんと胸が痛んだ。



「いや、姉やない」
「?あっもしかして彼女さん?!なあんちゃってー、まさかね。こんな高校生と付き合えるわけないか!」
「………せやな」
「っ!」



女の子の言葉がつきんつきんと胸に刺さり息苦しくなって、忍足くんの言葉にとどめを刺された。ちくんちくん、とにかくその場を離れたくて、走り出す。忍足くんの制止が聞こえたような気がしたけど、聞く気になれなかった。なんで?なんで彼女だって言ってくれないの?恥ずかしいの?どうしてわたしの目の前で女の子と
足がもつれて、体のバランスが崩れる。転ぶ、気づいたときにはもう遅くて、地面に全身を強くうった。痛い。体を起こすときに、真っ赤になった膝が少し見えた。立ち上がれなくてぺたんと座りこむ。手のひらがじんじんする



「…っふ、ひっく」



忍足くんはわたしのこと好きじゃないのかもしれない、告白したのはわたし。電話をするのもわたし。メールも忍足くんからきたことなんかない。断れなくて付き合ってくれただけなのかもしれない、忍足くんは優しいから。涙がぽろぽろと落ちて、地面がまだらに黒く染まっていく。膝から血はだらだら出てる、痛い。胸はもっと痛い。



「なまえ…」
「っく、う」



見上げると制服が乱れた忍足くんがわたしを見下ろしていた。



「大丈夫か?血が、」



無理して優しくしなくていいんだよ、忍足くん。言いたいのに口からは嗚咽しか出てこない。泣き止めわたし、忍足くん困ってるじゃん。忍足くんがブレザーのぽっけから小さいタオルを取り出して、わたしの膝から出る血を拭いとる。ちょ、っと乱暴で痛い。



「い、いいっ」
「いいわけあらへん。血ぃ出てるやん」
「き、っきたないよ」
「汚くないわ」
「おしっ忍足くん」
「ん」
「わた、っひっうく、わたしっ」
「落ち着きぃや」



忍足くんがゆっくりとわたしの背中をさする。その優しさがまたわたしを泣かせちゃうんだよ。大好きなの、どうしたって優しい忍足くんが好き、ごめんね



「………すまん」



ぽつりと忍足くんがつぶやいた。別れよう、って言われちゃうんだ、きっと。そう思うとまた涙が溢れる。ぎゅうっと目をきつくつぶった。



「恥ずかしかったんや」
「っ、………へ?」
「彼女やって言うんが、恥ずかしゅうて…その、すまん」



そっと忍足くんを見ると、うつむかせていて表情が読み取れなかったけど、髪からのぞく耳が少し赤かった。



「…別れ、話じゃ…」
「別れ?!なしてや!」



わたしが考えていたことを言うと、忍足くんは慌ててわたしの予想を全部否定した。



「それに俺、好いてもない女と付き合うたりするほど優しうないで?」
「…そっか……。よかっ、…よかったぁ…」



安堵した拍子にまた涙がぽろっとこぼれて拭った手を忍足くんが取る。忍足くんの顔がすごく近くにあって見とれていると唇に柔らかいものを押しつけられた。



「ん、」
「……好きや」



わたしの目をじっと見つめて言った彼はすごくかっこよくて、その言葉がとてもうれしくて、わたしは彼に抱きついた。


結論
愛があればオールオッケー




「(お、押し倒してしまった…!)」
「……なまえ、」
「ごめっ、ごめん!あの、忍足くんが初めてわたしに好きって言ってくれてうれしくてそのっむ」
「(なんやこいつかわいすぎるやろ…!)」


100913 chikura


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