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彼女は俺の恋人だった。過去形。今は違うってことだ。彼女とは、ふと気がつくと五年以上も一緒にいた。初めて人を好きになって、初めて手をつないで、初めてキスをして、初めてセックスをした。大好きだった。大好きで大好きで、愛してた。
高校も半ばから俺の殺風景な部屋に彼女の物が増えた。一緒にいる時間も増えた。卒業するころには同棲状態になっていた。彼女といると時間の経過を感じにくくて、やはりふと気づけば俺らはハタチを目前としていた。会話やスキンシップはだんだんと減ってた。手をつなぐことでさえも恥じらっていたような初々しさは薄れていった。だからといって嫌いになったわけじゃなくて、冷めてたわけでもなくて、落ち着いたんだと思う。良い意味で。お互いにいて当たり前みたいな家族のような存在になっていたのだろう。だから彼女の親は、俺と彼女は結婚するもんだと思っていた。俺もそう思ってた。俺がマフィアだからどうとかは関係ないわけじゃないけど、あまり深く考えもしなかった。彼女はなんだかんだ俺に付いてくるんだと思ってたから。

別れは突然に訪れる。

今となっては原因も思い出せないような喧嘩をした。たぶん、どうせくだらない理由だ。それがヒビとなって俺らは決壊してしまった。色々限界だったんだ、潮時だってわかってた。わかってたけど、どうしようもなかった。あまりにもあっけない。呆気なさに涙も出ねえ。
いつもなら彼女が謝ってきたんだ。どんなに俺が悪くてもごめんね、と泣きながら謝ってくる。そんでヤって仲直り。いつも、なら。今、俺のところに彼女はいない。彼女の物がきれいさっぱりなくなってしまった。殺風景な部屋に戻った。つまりはそういうことだ。彼女が折れなかったから終わり。俺は謝る余地もなく、彼女と繋がる手段を絶たれた。いつの間にかいなくなっていた。もう何年も前の話だ。記憶は薄れてゆく。写真の一枚も残さずに、ぶれまくった写メで彼女を覚えてる。


彼女の口癖。



「私、女優になりたい」



かと言って、彼女は演劇部に入ってるわけでも、劇団に入ってるわけでもなかった。ふとしたとき彼女はいつも言っていた。


「女優になりたい」


そんな見た目よりガキで夢見がちなところも彼女の好きなところの一つだった。喧嘩の理由はそれを俺が嘲笑ったことだ。八つ当たりでひどい言葉を吐いた。傷つけた。
彼女に謝りたかった。しかしあれから一度も彼女に会えていない。探すことはしなかった。上手く謝れる自信がなくて、彼女に拒否されたらと考えると気が削がれた。


あれから何年が経っただろう。手元にあるのはアダルトDVD。若いときによくお世話になった。懐かしい。彼女に見つかって泣かせたこともある。どうして俺がこんな物を持っているかというと、彼女を見つけたからだ。DVDのパッケージに彼女がいる。主演。彼女は俺の知らない女の顔をして、その体に白いエプロンをつけてこっちを誘うように見ている。震える指でDVDをプレイヤーにかける。注意書きと他のDVDの宣伝をすっ飛ばし、本編。間違いなく彼女だった。愛していた彼女。もう知らない顔した女。ただの女。



「女優って、…こっちのになってんじゃねえよ…」



彼女が俺の名前を呼んだ気がした




100803 chikura
女優ちがい


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テーマ「人外ファンタジー」
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