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真っ暗な世界に閉じこめられた。人も音も匂いも気配も色もあたたかくも冷たくもない上も下も右も左も何にもない世界に、ひとり。独り、一人、ひとりひとりひとり独りきりひとりひとりひとりぼっちひとりひとりひとりひとり
気が狂ったかのようにヒトリと呟くけど私の声は暗闇に吸い込まれてしまう。発した音は私の耳に届くことなく消える、静寂。呟くのをやめたとき自分が息をしていないことに気づいた。
私、息をしてない。
自覚すると同時に苦しさが襲ってその場に崩れ落ちた。苦しい苦しい息ができない酸素を、取り込まなければ、死んでしまう…!



ぱっと目を開ける。何か嫌な夢を見ていた気がしてぼんやりした頭の記憶を探ってみたけど、内容は全然思い出せなかった。夢はたいがいそういうもの。曖昧で無意味で。だけど、胸のもやもやは残っていてすっきりしない。嫌な目覚めだ

シャワーを浴びても冷水で顔を洗ってもご飯を食べても私の気分は晴れなくて、なんとなく視界が薄暗い。きっと天気が悪いせいだ。空を見上げると灰色の雲に一面覆い尽くされていて、また憂鬱になる。

冷たい指に息を吹きかけながら電車を待つ。周りの人間がみんな無機質で冷たい生き物みたい。人に囲まれると私一人だけが取り残されたような孤独感が襲ってきて、ん?一人?ひとり、という単語がどこか懐かしく思えてひとりひとりと呟いてみる。でも私の声はいろんな雑音にかき消されて、当然発した音は私の耳に届くことなく消えた。あ、れ?これもどこかで…胸のもやもやが広がって私の思考をぐちゃぐちゃにする。ひとり、ひとりひとりひとりひとり一人…、ひとり、ひとりぼっち




「った、誰?…なまえ?」



綱吉の背中にぎゅうと抱きつく。お腹に回した私の手にとまどいつつ綱吉の手が重なって、ほっと息をついた。ああ今日初めてちゃんと息したかも。



「ど こ、にも」
「ん?」



どこにも行かないでって私が言ったら綱吉は 行かないよと嘘をつく。だから私は言葉を飲みこんだ。飲みこんだ言葉は胸のところでもやもやになって、ただただ蓄積されるだけ。綱吉がいないとまともに酸素も取りこめない夢の中の私は、近い未来に迫っている。



101207 chikura
そう遠くない




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テーマ「人外ファンタジー」
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