log | ナノ
俺さあ、ふられた
夕暮れの教室で丸井が独白する。ぱこーんぱこーんと小気味良くテニスボールを打つ音と吹部のトランペットの奏でる不協和音を遠くにきき、だんだんと沈む夕日を眺めていると何となく孤独を感じる。ああ早く帰らないと。そう思いながら、うなだれる丸井のつむじから私の視線は離れない。つむじって下痢ツボあるって本当かな
「なんで俺じゃねえんだよ」
察するに。丸井の付き合っていた女子高生は本当は丸井をそんなに好きじゃなくて、別に好きな男がいた。その男と丸井を天秤にかけた結果、丸井はふられた。女子高生は別の本当に好きな男と付き合った。二人はめでたし、一方丸井はバッドエンド。でも私にとっては願ってもない展開だったりして。
「なんで俺じゃねーんだよー」
もうそれ聞き飽きた。タイツにくっつく毛玉を慎重にちぎる。あ、この毛玉深い、くっそ…この、ちぎれん…!力任せに引っぱって伝染したら嫌なのでそれ以上引っぱらないことにした。糸一本でつながってる毛玉が前よりもっとみっともなく見えて心の中で舌打ち。
「お前聞いてんの?」
「うんうん聞いてるよー」
私の適当な返事がお気に召さなかったらしく、丸井はちっと舌打ちをした。そんなんだからふられるんだよ。女の子に舌打ちとか、ないわ。これは今の丸井に言うと傷つくから言わないでおこう。
「はーあ俺一生幸せになれねー気がする」
出た、丸井の「一生幸せになれない」。女にふられる度、試合に負ける度、テストで赤点取る度、雨の日にトラックに水をかけられる度、何か嫌なことがあると丸井は一生幸せになれないと言う。なんかさあ、幸せになれないって端的に不幸って言うより幸せそうだと思うんだけど。だって幸せじゃないだけで不幸ではないんでしょ?丸井はそう言った私を一瞥して、幸せじゃないことに変わりないと呟いた。まあそれはそうだけどさ。考え方の違いじゃん。
「丸井が幸せになれる人と付き合えばいいのに」
「そんなんわかったら苦労しねえよ…」
これだから丸井はバカだよね。目の前にその人はいるのに気づかないなんてさ。こんな風にかっこよく言えたら丸井は私と付き合ってくれるのだろうか。言えないけどさ、ってかいい加減気づけよバカ。丸井が好きだよ、このバカ。言えねーよ、ばーかばーか丸井のばーか
「幸せになりてえ」
私だってなりたいわバーカ
101206 chikura
気づいてよ