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「向日ぃ、教科書忘れたごめん見せてー」



隣の席のみょうじは何でも俺に頼る。ある日は弁当を忘れ、宿題を忘れ、ジャージを忘れ、そのたびに俺は弁当を分けてやり、宿題を写させてやり、ジャージを貸す。昨日なんか携帯をなくしたとかで一緒に探してやった。結局みょうじの家にあったらしい。さすがの俺もこれには怒った。みょうじとは特別仲が良いわけでない。だからと言って悪いわけでもないけど。部活仲間でもなく、幼なじみなわけでもなく、親同士が仲良しなわけでもなく、もちろん彼女でもない。ただ席が隣なだけのクラスメイト。たまにお昼を一緒に食べるくらいの。
俺はみょうじと机をくっつけ、教科書を溝に置く。手を合わせて小声でお礼を言うみょうじに今度なんか奢れよ、と俺も小声で返した。申し訳なさそうに眉を下げてへらっと笑う顔が俺は好き。



「向日にお礼がしたいんだよね」
「………は?」
「だーかーらお礼!」
「なんだよいきなり」



今日も今日とてみょうじは弁当を忘れたらしく、俺が奢ってやったパンをむしゃむしゃと食べる。それ上手い?すっげー甘そう、言うとみょうじはパンを少しちぎってくれた。そんなつもりじゃなかったんだけど。…あまっ



「日頃の感謝にこたえて、ってやつだよ」
「どっかで聞いたことあんなそれ。感謝祭か?」
「まあ、そんな感じ?何か欲しいものとかさあ、してもらいたいこと…例えば肩叩きとか」
「肩凝らねーし」
「んじゃ欲しいもの?」
「お前には絶対無理だから言わねー」
「えー何なに?」



ねえねえ欲しいものって何?こいつはしつこい。前に好きな人誰って聞かれたときも一週間くらい会話の間あいだに「で、好きな人誰?」って聞かれて地味にいらっとした。そんときは適当にごまかしたんだったっけ?いやみょうじが諦めたんだっけ?



「ねえ何教えてよ」
「何でもいいだろ」
「いくないー、ねえねえねえねえねえ」
「あーもうくそ、はね!」
「はねって飛行機の?」
「そんなでっけーのいらねえよ!羽!背中につけるやつ!」
「ああこれか」



まばたきをする間、いやそれよりずっと早かったかもしんねー。俺がみょうじの言葉に反応するよりも早く、目の前のみょうじには羽があった。それは俺の想像してた野性的なものじゃなくて、薄くて、白いというよりは透明感のある感じ。貝の内側みたいな虹色の羽。大きさは小さくもなく大きくもなく、なんかみょうじの羽って感じ。あ、これすっげえしっくりきた。うん、そうみょうじの羽。みょうじの背中についてる時点で誰のものでもなくみょうじの羽なんだけど、その羽について説明してくださいって言われてもみょうじの羽です。としか言えない。綺麗とかそういう神秘的な魅力はない。ただ、そこにある。言うなればシャーペンとか消しゴムとかと変わらない。そこにあるだけ。



「これあげようか?」
「それはお前のじゃん」
「まあ、そうなんだけど」



なんだよそれ。大体、背中についてるものを簡単にあげられるのか?それ生えてんじゃねーの?



「あげられないことはないよ」
「ふうん」
「でさあ、何で羽が欲しいの?」
「何でってそりゃ」



ここまで言いかけて、はたと止まる。あれ?何で俺は羽が欲しかったんだ?



「向日のちゃんとあるじゃん」


101109 chikura
デジャヴ?




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