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「……悪ぃ、今日は帰れねえ」



私が返事をするより早く電話は切れて、無機質な機械音と私だけが残された。ため息をついて、携帯電話を投げる。壊れたかもしれない。どうでもいいけど。
今日の日付だけ大きな丸で囲まれたカレンダーにいらついて、破った。何が記念日よ!いい年してハートマークなんかつけて!月初めの自分に心のなかで毒を吐く。

綺麗に片づけたリビングもテーブルの上の二組の料理もリボンを巻かれたワインも全部にいらつく。最悪、最悪!!!あの調子じゃ記念日なんてきっと覚えてないんだわ、あの馬鹿!!スクアーロの馬鹿!手当たり次第に物をテーブルに向かって投げる。リモコンもティッシュケースもスープにぼちゃん、パンがキーケースに当たって飛ぶ。ナイフもフォークもスプーンもテーブルから落ちて、真っ白だったクロスはところどころシミがついて汚い色に。あれもこれも全部スクアーロのせい!カーテンを引っぱっても上手く破けなくていらいら。力任せに引っ張ったら中途半端に部品と分離したので余計にいらついた。スクアーロの馬鹿!仕事馬鹿!!ワインを思いっきり振りかぶって床にぶつける。私の白いシャツにワインが跳ねた。床にワインが広がって、その水たまりの中に倒れこむ。もう知らない!



「スクアーロなんか嫌い」



心にも思っていないことを声に出して言うとちくりと胸が痛んだ。惨め。私ばっかりスクアーロが好きで、スクアーロは私なんか…。全く好きじゃないのは悲しいから、たぶん少ししか好きじゃないんだ。私の好きな可愛い服とか綺麗なグロスとかきらきらした指輪をどんなに集めてもスクアーロには勝てないけど、スクアーロはそうじゃない。私より大事なものが、例えば仕事とか仲間とかたくさんある。それはわかってるつもりだけど、やっぱり悲しい。百歩譲って一緒にいられなくてもいいけど、一言くらいあってもいいじゃない。まあそれもスクアーロが記念日を覚えてなかったら考えつくはずもないんだけど。涙がワインと混ざる。



「…な、にやってんだあ」



部屋がぱっと明るくなって、スクアーロの声。涙が瞬時に引っ込んだ。



「スクアーロ…?」



起き上がって、振り向くとスクアーロが私の頭を叩いた。義手で。



「いった…」
「何だこの部屋は?!」
「…スクアーロ、今日帰ってこれないって」
「あー急用を思い出しただけだぁ」
「急用?」



あ、キスするときの目だ。まぶたを閉じると、おでこに柔らかい感触。



「これからもよろしくなぁ」
「……何でおでこ」
「部屋をめちゃくちゃにするやつにはこれで充分だあ」
「………」
「帰ってくるまでに片づ、け



スクアーロの長い髪の一房を掴んで、続く言葉をふさいだ。あ、スクアーロのスーツにワイン付いちゃったけど許してね




101108 chikura
ささやかな復讐



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