「生きたい」
たった一言。独り言でも誰に言うでもなくただ音を震わす。生きたい、生きたい、生きたい。言葉の意味を考える。生きる、生命活動。心臓が動くこと、考えること、話すこと、見ること、聞くこと、食べること、感じること。泣く笑う悲しむ怒る愛する。わたしには全部なくちゃダメなもの。煩わしくもあるけどなくてはならない心。心が伴ってこそ生きることだと私は思うから。
「馬鹿じゃねーの」
「馬鹿じゃないよ。あなたにはわからないかもしれないけど」
「わかんね」
そう言ってベルは私の頬にナイフを滑らせ、口元を歪ませた。
「俺さ、」
ベルが私の右手をとり、手の甲に爪を立てる。赤い線が私の手に引かれていく。
「お前見てるとイラつく」
「………そう」
「同じ人間なのに、違う種類みたい、お前」
「違う種類だと受け入れられない?」
「そういう皮肉じゃなくて、人間と犬猫はわかりあえないっつー意味」
「…………」
「お前のことわかんねー」
「…………」
「何で、庇った…」
引っ掻かれていた手が震える。ベルの顔を覗きこむと、頬をつたう涙がぱたりと落ちた。
「わかんない?」
「質問ばっかすんな、むかつく」
「生きてたから」
「…………」
「ベルを愛してるから」
「…………」
「心が生きてるから」
「…残される俺のことは考えねーのかよ」
静かに涙を流すベルに触れたい。涙を掬ってあげたい。でもそれは出来ない。腕はもう動かない
「勝手だ」
ベルに言われたくない
その言葉を胸に閉まって私が発した言葉はベルに届いたかな。
心を置いて行きます
あなたを想った私の感情すべてを残していきます。
101104 chikura
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