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※白々を勝手に擬人化


「よっ」



チャイムもノックも白には意味がない。一応礼儀として、してみたはものの反応がなかったので勝手に上がらせてもらった。白はその名の通り真っ白な容貌をしている。髪も肌も着ている服も、洗いざらしのワイシャツのように真っ白だ。しかし瞳は黒く、深い闇のそれを僕に向けて無気力に おーう と一言。



「いまいそがしいんだ」
「そんな風には見えない」
「何しにきたの?」
「雑談」



ふうん だか ふあ だか曖昧な返事をして本に目を落とす。おいこら雑談だって言ってんだろ。形の良い、やはり真っ白な耳にはこれまた真っ白のイヤホンが詰め込まれていて、ひどい爆音が音漏れしている。女というよりは少女のような、しかし派手ではなく無駄を削ぎ落とした精巧な顔立ちを眺めていると、薄汚れた音が止んだ。床に寝そべっていた体がゆっくりのっそり起き上がる。ぺきぺき、骨のなる音がした。



「げんきしてた?」
「白こそ」
「見ての通り」
「あもさんは?」
「さあ」



白の家に行くとあもちゃんはいつも甘い匂いがすると言う。白はひどい偏食家で甘党だから、お菓子の匂いが移っているんだろう。現に今、チロルチョコを口に放り投げた。



「ビッチ化おめでとう」
「殴るよ」
「いいよ」
「……はあ、」



どんなになっても、あるはかわるじゃない と白は言う。平仮名ばっかりで話すのは白の癖。俺をあると呼ぶのは白だけ。白はもう変わらない。閉鎖された。しかし死んではいない。白を殺さないでくれてありがとう。あもちゃんの代わりに心の中で礼を言う。何か藍本さんに会いたくなったなあ。



「また再開するかもしれないじゃないか」
「……」
「名前は変わるかもだけど」
「あるふぁ」



フルで名前を呼ばれるときは白が感情を表したときで、真っ黒な瞳が俺に向けられていた。怯えてる。何に?



「きたいさせんな」



ゆらゆら揺れる目が好きだ。一瞬だけの感情を見せた白は可哀想で愛しい。懐かしくも思う。藍本さんといるときのこいつは本当に人間らしかった。今はからっぽな人形みたいだ。



「ところで」
「何?」
「アンタは俺しかともだちがいないのか」
「いるよ。ただ、えるはもう半年くらい会ってない」
「きらわれてるな」
「そうかも」
「そら、って人は」
「今はハイドな。空ちゃんは大好き」
「きいてない」
「そうかよ。あんまり近づかないようにしてんだ」
「アンタにおせん、されるからな」
「殴る」
「いいよ」



振り上げた拳を開いて、その白い頬にそっと触れた。睫毛まで白い。その奥は黒い。お前はなんて欠落した存在なんだろう。ミロのヴィーナスの欠けた美しさの話がふっと浮かんだ。別にこの目が悪いと言っているわけじゃない。そうじゃない。唇を合わせると、想像していたよりずっとずっと甘かった。







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