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せんせー好き、と桜色の唇が俺を惑わす。もし俺がお前と同じ紺色であったなら性欲に任せて迷わずその唇を塞いだだろう。若いっていいよなあ、一時のテンションで教師に告白しちゃうその若さが罪だよ。俺はもう一時のテンションに身を滅ぼすほど若くない。



「冗談はよし子ちゃん」
「ほんき」



そんなまっすぐな目で俺を見るな。



「せんせー」



甘ったるく俺を呼ぶな。無視して手元にあるテストの採点を始めるが、視線が痛くて手につかねぇ。何でだ?どこで失敗したんだ、あれか、ここの掃除頼んだから勘違いされたか?クソ面倒くせぇ。ガキはガキ同士くっついてりゃいいのによ。



「…お前何組だっけ」
「A」
「俺じゃなくてさあ、あいつ、バスケ部のイケメン流山とかどうよ」
「ダメだよ」
「いいじゃんイケメンだよ。たぶんお似合いだよ」
「好きじゃないから」
「……さいですか」
「てかあんまりイケメン好きじゃないんだ」
「ん?それは暗に俺がイケメンではないと言ってるのかなぁ?」



あははと大口開けて子供みたいに笑う彼女に内心ほっとして、あわよくばこの告白流れねーかなあとか思ってる俺は薄汚ぇ大人だ。



「だってせんせーは別格だからね」



そんな恥ずかしい事さらりと言っちまうのか。ああもう若いって罪だよなあ…。結局掃除は終わらず、俺はつい「また頼む」と口を滑らせた。すると彼女は「また明日ね」とはちきれんばかりの笑みを見せて俺に手をふった。あーあ…何やっちゃってんの俺。






「せんせー」
「ん〜?」
「寝てないで片づけてよ」
「それはお前の仕事」
「頼んだのせんせーじゃん」
「飲み明かしたから先生眠いの」
「酔っぱらい教師」



誰のせいだ、誰の。つーかお前本当に俺に告白したのか?と言いたくなるくらい当の本人はけろっとしていて、認めたくはないが俺の方が相当ダメージを受けてる。ガキのたわごとじゃんか。何を俺は気にしてんだ…。そうだ、たわごと。どうせお前はあと一年二年もしない内に俺の前からいなくなる。教師と生徒という関係に元がつくようになって、記憶にもなくなる存在にしてしまうくせに。



「せんせー」
「…うるさーい」
「気分悪いの?」



眼前にあった小さな白い手をパチッと叩いた。最初からこうすればよかった。余計な期待を持たせずさっさとふればいい。俺は大人で目の前の女は生徒で、それだけ。



「俺を好きなんて幻想だ。若いときはなぁ、恋に恋してるだけなの。お前は俺を好きじゃなくて、恋を好きなだけだ。」



はっきり言ってしまえばきっともう俺に近づくこともない。一件落着じゃねぇか。だろう?なあ、そうだろ俺?何で俺がこんなに泣きてぇんだ。



「せんせー」
「掃除は別のやつに頼むから。ありがとな」
「…せんせぇっ!」
「しつこ、ってぇお前何してんのォオオ?!」



ガツンと言ってやろうとばっと振り向いたら、彼女は紺色のセーラー服を脱ぎ捨て俺を睨んだ。白い肌にパステルピンクのコントラストが眩しい。白、白白白白白、釘づけになって固まる俺に伸びる細腕を拒むことは容易い。けれど俺は、彼女の紺色の下のその白に無性に触れたくて。



「…好き」



ああもう知ったことか。彼女が紺色で俺は薄汚れた白。だから何だって言うんだ。俺はいま、彼女に触れたくて手を伸ばす。



110321 chikura





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