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好き、だなんて綺麗な感情じゃない。少なくとも私には複雑な感情だ。あの人がこっちを見てくれたら嬉しい。他の女の子と笑ってたら嫌。嫉妬してる私は可愛くない。嫌い。一言も話せなかった日は悲しい。逆にいっぱい話しかけられても、髪の毛が跳ねていたからあまり嬉しくない。どうして早起きしてセットしなかったんだろうって、後悔しちゃう。名前を聞くと反応してしまって、知らず知らずのうちに目で追ってる。見たくないもの、見る。知りたくないことを、知る。わかりたくなかった。好きって半分以上辛い。

私みたいにあの人も私のことを、女の子として、好きになってくれたら死んでもいいって、夢見てた。でもそれは絶対にあり得ない話。だって私、あの人が好きで、一日中目で追ってるから気づいちゃった。あの人は私を好きにはなってくれない。他の、私じゃない、たった一人の女の子に恋してるの。そしてきっと両思い。くやしいなあ。どうして、私じゃなくて、あの子なんだろ。こんな気持ちはみにくい。あの子は優しくて可愛くて、私も好きだけど、嫌いになってしまいそう。あの人を好きにならなければよかった、と思ってしまうくらい苦しいよ。



田島も、こんな気持ちだったのかな。




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「お前のこと、好きだ」



雨が降ってた。窓ガラス越しの重たい雲を似合わないバックにした田島に告白された日。その前の日に風邪で授業を休んでしまった私は、放課後居残りをして昨日の授業のノートを友達から借りて、一人で書き写す作業に没頭してた。終わったと同時にぐいーっと背伸び。すると背後から「終わった?」と声がして、恥ずかしくなるくらいにビクッと肩を揺らす。



「びっ、くりした!」
「はははっ、ごめんごめん」
「部活あったの?」
「なかった」



なら、どうしてこんな時間まで?顔にそう書いてあったのだろうか。田島はにっこりと笑って「言いたいことがあったから待ってた」と言った。言いたいこと?



「俺、お前のこと好きだ」



一瞬、息が止まるかと思った。田島が?私を?…あ、ああそうか冗談かと思って、さっきみたいにびっくりしたーって、言えなかった。茶化すことさえできなかった。田島が真剣な顔してたから。野球をしているときに見せる本気の目。心臓がドキドキして、本気の田島はかっこいいと思ったよ。あの人を好きじゃなかったら、どう答えていたかわからない。でも私は、あの人が好きなの。



「ごめん…」



あいつが好きなんだろ?って一瞬泣きそうな顔をして、がんばれよって笑った。田島は知ってたんだね。私といっしょ。田島の 好き はキラキラ綺麗な宝石みたいに見えた。私は田島みたいにはなれなかった。せっかく応援してくれたのに、告白することすら出来なくて、好きな気持ちは千切れて散り散りになっていく。

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あの人とあの子が付き合ったのだと耳にした。いずれかは、と思ってたけど…。いくら備えても、痛い。ずきずきと痛む心を落ち着かせきれなくて、授業を放棄して空き教室で膝を抱えてたらスカートのポケットに入れていた携帯が震える。…誰…?ディスプレイも見ずに電話を取る。



「もしもし」
「今どこいんの?!」



通話口の声と廊下の声が同時に響く。「…教えない」と小さい声で言えば、ドアががらっと開いて、声の主である田島の姿。耳がいいのか、野生のカンってやつか…。つかつかとこっちに歩む田島をどうにか必死で拒むための言葉を絞り出す。



「来ないで…」



田島が今でも私のこと好きだったらいいなって思ってる。そしたら田島に甘えられるのに、って。私、嫌なやつ。そんなことして田島が傷つかないわけがない。傷つけたくない。



「田島の優しさにつけこんじゃうから、来ないで!」
「いやだ」
「利用したくないの…」
「俺は利用されてもいい」
「傷つけたくないの!」
「それでもいいよ」
「よくない!…よく、ないっ」
「なまえが一人で泣くより、ずーっとマシ」



にっと笑って、両腕を広げる。「おいで」と言われて、飛びついた。ぐっと強く抱き締められて、背中をよしよしとさする手に安心して涙腺の決壊。本当は、もうあの人をあまり好きじゃないんだよ。悲しいけど、自分で終わりにしたの。好き は、自分でズタズタに引き裂いてしまった。それでもいつかは思い出としてそれらを拾い上げてあげることもできるかな。そのときには今私の頭を撫でる手を好きになっているかもしれない。まだわからないけど、きっと田島を好きになる気がしている。













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