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※ホモセクシャルな財前
※大学生設定




お前って悪い男が好きなの?
適当にカバンにつっこんであったタオルを差し出すと、財前は俺のタオルをひったくってそのひっでー顔を擦りつけた。ついでには喉が乾いたと言い、俺が飲んでいた水をよこせと手をつき出す。ジャイアン襲来ってこんな感じだろうか。



「あの人は悪ない」
「泣かされて殴られて、よく言う」
「関係あらへんやろ」
「そうだな」



わざと冷たく言えば、緩みまくった涙腺のせいでまた涙がじわあっとにじんでいた。調子狂う。いつもなら俺に何言われたって平気なくせに。なけなしの強がりを総動員させて泣くのを堪えた財前は強い人、と見せかけた強がりが上手いだけのハリボテだ。洗面所に向かう後ろ姿がひどく弱々しくて頼りない。前に会ったときより痩せた気がする。



「冷やしたら?」



赤い頬が痛々しい。これ絶対グーでやられたよな。ただの痴話喧嘩?よくわかんねーけど、恋人にグーとか。男として、っつーか人として終わってる。そんな男ばかりを好きになる財前は俺が思ってるよりもずっと狂った人間なのかもしれない。電源の入っていない携帯をにらんでいた財前が、少しため息をついて白の携帯を逆パカした。あーあ。



「また殴られるんじゃね?」
「せやな」
「お前って殴られたくてわざとやってんの?」
「そんな趣味ないわ」



心外だと言わんばかりの顔だな。でも、そうとしか思えないだろ。毎回毎回こんなことしてたらさ。



「何で付き合ったわけ?」
「好きやったからに決まっとるやろ」
「あいつが女と付き合ってたの知ってる?」
「知っとる」
「弄ばれてるとか」
「うるさい」



幸せとはかけ離れていると断言はできない。男女の恋愛と同じで同性の付き合いも人それぞれなわけだろうし。もし財前がホモじゃなく、女と付き合っていたらどうなっていただろうか。幸せになっていただろうか。少し想像してみたけど、難しかった。じゃあ、もし俺とーー、よくわからない。でも何となくそれもアリだろうと思ってしまった。何でだ。



「幸せになりたいわけやない」



心の中を読まれたのかと、ちょっとビビった。財前は続ける。



「元々、幸せとは逆やねん。不幸になるしかないんや」



それでも好きになるんだからしゃーない、たぶん続きはこうなるんだと思う。気づいたときには財前を組み敷いていた。腹が立った。不幸な顔して何言ってんだお前。下で財前の表情は変わらない。なあ今何考えてんの?中学のときと変わらないピアス。そういえばお前の初恋はあの先輩だったっけ。財前のくぐもった声にはっとする。俺が喉に噛みついたからだ。ああ何となくこいつの彼氏の気持ちがわかる気がする。



「不幸にしてやろうか」



自嘲と侮蔑の笑みを浮かべた財前の狂気にあてられてしまったのかもしれない。






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