ハッピーバースデーディアざーいぜーん | ナノ



「夏服ってええなー…」
「きもっ」
「財前、敬語」
「すみません忍足先輩気持ち悪いので今すぐそこから飛び降りてくれませんか」
「死ぬわ」



むしろ死ね、心ん中で思うたけど口に出さんかった俺はホンマに優しい後輩やと思う。再度謙也さんを見ると鼻の下をでれっでれに伸ばして、教室にいる彼女らしき女に向かって犬みたいに手をふっていた。それがあんまりにもキモかったので、部日誌で横っ面を一発。



「あれ…?」
「あれ…?やあるかボケェ!!!痛いわ!」
「いや違うんすよ。今のは俺やのうて、あんまりに謙也さんがキモいから。ま、しゃーないっすわ」
「無意識で許されると思っとんのか!」
「暴力はんたーい」



彼女できたからって浮かれすぎっすわ。ぶっちゃけ謙也さんの趣味悪すぎやろ。本人に言うたらさすがにアレやから黙っとくけど、あれはないわ。脚の長さだけが自慢な女やん。脚フェチの謙也さんはあれでええんかもしらんけど、ホンマこの人は馬鹿やと思う。マネジがコツコツ三年も謙也さんに片思いしとるんも気づかへんで、あーっさりあんなんと付き合うんやからな。



「…馬鹿っすわ」
「?何か言うた?」
「なんでもない」



それよりほれ、あれ見てみい、とまただらしない顔をして彼女の方を指さす。何やねん、もうええっちゅうんに。謙也さんうっといっすわーうざいっすわー。



「財前も男ならわかるやろ?夏服の素晴らしさ!」



…嫌やもうこんなんと同じ空気吸いたない。夏服だから何やねん。裾ちょんぎって、生地薄くしただけやんか。俺の冷ややかな視線に気づかない哀れな謙也さんは夏服の素晴らしさを熱弁しているが、俺には良さがさっぱりわからない。ブラ線が透けるから、何?二年は下にきっちりキャミ着て防御しとるんすよ。謙也さんみたいな変態から身を守っとるんすよ。下着に直で制服着とんのなんか三年だけっすわ。ちゅうかブラなんかよりニーハイの方が何倍も萌えるんすけど。どーでもええんすけど。



「財前!珍しいね、三年の教室にいんの」



パピコを片手にマネジこと先輩がとことことこっちに駆け寄る。なぜか、裸足。うっすら、やけどハイソ焼けしとるやん。だっさ。



「日誌届けに来たんすわ」
「あーね」
「先輩」
「あげないよ」
「まだ何も言っとらんわ」



パピコが何でそないな形になっとるか知ってはりますか? 知らない。 俺に片っぽ分けるためっすよ。 うそつけ! 先輩が笑う度にクラスの女子がふりまく制汗スプレーとは違う、良い匂いがする。先輩、謙也さんのこと…まだ好きなんやろな。俺と話しとるのに、謙也さんの方ばっか見とる。人と会話するときは相手のこと見らんと失礼っすよ。むかついたので先輩の隙をついてパピコを奪ってやった。食べかけのやつ。



「コラ財前!」



やっと俺の方向いてくれた。と思ったのも束の間、先輩は白いビニール袋を探り、謙也さんに炭酸飲料を手渡す。



「おおきに!あとでお金返すなー」
「マネジをパシリに使わないでよねー」



そんなん言いつつ、嬉しそうやん。…ま、えっか。先輩嬉しそうやし。ホンマ謙也さんのこと好きなんやなー。謙也さんもさっさと彼女と別れればええのに。そんで先輩と付き合うたらええのに。凍っているパピコをむにむに押して溶かしていると、横からキッツイ香水の匂いがした。



「ねえ謙也ぁ」
「おわっ!びっくりするやん!」
「それ、私飲みたいなあ」



うえっ、強すぎる匂いで鼻がおかしくなりそうだ。何で謙也さん平気なん?鼻までやられたんやな、そうやな、お大事に。いちゃつく謙也さんたちを見ると吐き気がしそうや。暑苦しい。ふと横を見ると、先輩とばっちり目が合った。一瞬その顔が、今にも泣きそうで、でも先輩が、平気だって言うみたいに、頼りなく笑うから、



「……財前、何しとん」



目の前にはびしょ濡れの先輩。俺の片手には空っぽのペットボトル。つまり俺は先輩に炭酸をぶっかけてしまったわけで。あ、先輩ブラ透けとる。なんて呑気なことを考えた。ちょっとええな、って思った。少し焼けた手が伸びてきて、ひっぱたかれる、そう思うて目をつぶれば腕をつかまれ、先輩が走り出す。俺の腕を引っ張ったまま、浪速のスピードスターにも引けを取らない速さで走る。



「ちょ、…先輩、」



その先、プールっすよ。まさか、まさか…まさか!俺と先輩の体が水に飛びこんで、大きな音がした。あっけにとられた水泳部は、何だ何だと俺らを避ける。水の中で、先輩は俺の手をぎゅっと握る。



「っはあ、はっ、」
「ぶはあっ!っはは」



財前、ありがとっ!とまぶしく笑う先輩にドキッと胸が鳴ったのはブラが透けていたからということにしてもらいたい。こんなん青春のベッタベタの王道すぎて、何もおもんないわ。この後二人仲良く説教されんのやろ?読めてるで。でも、まあ、先輩とおれるんなら出来るだけ長いお説教を一つ頼みますわ。


110720 財前ハピバ企画


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