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一週間と少し前、告られて俺は珍しくその子と付き合うことにした。何故かって言うとそいつがまあまあ可愛かったのと、退屈だったからだ。けど何か思ってた以上につまんねえ。つーか疲れる。今も誰もいなくなった教室で待たされてる。帰りてえー、帰ってアイス食いながら再放送のタッチが見たい。せっかく今日は部活が休みだというのに。
「あーあ」
「彼女出来たんだって?」
いつからそこにいたんだろう。廊下から先輩がニヤニヤしながら顔を出す。
「出来たっすよ」
「へぇ」
「先輩は?彼氏できたんすか?」
「いらない」
できないじゃなくて?と皮肉っぽく言うと、そうそうそんな感じ〜とさらりとかわし、先輩はスカートを抑えて床に、俺の隣に座る。ファンタグレープの甘い匂いが強く香った。そういえばファンタのグレープとオレンジは味が同じだというのは本当だろうか。
「彼氏ずっといないわー」
「…へー」
つい最近、先輩が誰かウチの学校の男と腕を組みながら下校するのを見た。違う日にはまた違う男になっているのも見た。あれは先輩にとって彼氏じゃないんだろか。つーかそんなモテる感じじゃなさそうなのに…、ぱちっと目が合った。
「なに?」
「いや、…髪染めたんすか?」
苦しまぎれの言葉に先輩はキョトンと目を丸くして、ああ、これね。と髪を触る。先輩が手で髪を梳くと指から髪がサラサラこぼれ落ちた。
「地毛だよ」
「え、茶色くないっすか」
「地毛。」
ほら、目の色と同じでしょ。先輩が自身の目を指さす。俺が少し覗きこむと、先輩はすっと近づいて俺にキスをした。
慣れてる。しかも鮮やかな技だ。なるほどーこうやって先輩は男を引っかけていくんだなと舌を絡めながら思った。グレープ味だった。
GRAPE KISS
110418 chikura