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通学路に咲く梅の花、暖かい日の光、太陽が沈むのが少し遅くなった。春がすぐそこに迫っている。そのせいか朝は起きづらくなったし、昼間は眠い。
ざわざわと声のする方に目をやれば、三年生が体育館に向かうところだった。ああ、…卒業式の…。胸のあたりが締め付けられたようにきゅうと痛む。先輩達が中学生でいられるのはあと少し。たった一つしか変わらないのに高校生になる先輩たちに大きな溝を感じるのは俺だけだろうか。寂しいと思っているのも、俺だけなのかな。白と赤の派手な頭が俺に手をふっているのを無視して机につっぷした。



゚*。*。.゚*。*゜.゚*。*


式は退屈で途中何度も寝こけてて、起こされたときにはもう退場のときだった。先輩達は泣いてたり笑ってたり、でもしっかりと前を見据えて花道を歩く先輩達はちょっと大人に見えた。在校生の俺らはこの後もちろん片付けがあるわけだが、めんどくさいので帰る。あっと携帯、教室に置きっぱだった。



「げ」
「赤也、俺がいなくなったら寂しいじゃろ」
「はいはいウザ絡みしない」
「先輩」



くすくすと笑う先輩は俺の知らない人みたいだ。マネージャーだった先輩は引退して、受験やなんやでしばらく見ないうちに随分と変わってしまった。肌の色もあの夏の小麦色から白くなって、髪もちょっと伸びた。ほんのりピンクに色づいた唇から目をそらす。



「これ。返すの遅くなってごめんね」
「ああ、ども…」
「……」
「じゃ、また」



赤也、と俺を呼び止める声は小さくて消え入りそうで、俺は先輩のそんな声を初めて聞いた。後ろから頭を殴られたような錯覚に陥ったのは、先輩がこれまた俺が見たことのない表情をしていたからだろうか。何か言いたげに恥ずかしそうにして、困ったように、寂しそうに、俺を見る先輩を思いっきり抱きしめたくなった。そんな自分が理解できなくて、先輩にどうしていいかわからなくて、ただ心臓がバクバクとうるさい。何だっていうんだ。いきなり大人になって、だからそんな顔で見るなよ!



「あたっ」
「……」
「何するの!」
「俺だってよくわかんねーっす!」
「赤也のデコピン重い!痛い!」
「さーせんっしたー」
「可愛くない!!!」



頬をふくらませる先輩を笑いながら、ほっとした。先輩が俺の知っているあの夏のまんまだったから。



「先輩、」
「ん?」
「卒業おめでとうございます」
「ありがとう」



大人のように笑った先輩を綺麗だと思った。


110301 chikura
卒業おめでとう





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