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「もし一つだけ願いが叶うなら、」



光は何て願う?という何とも藪から棒な質問を先輩はようする。これを俺はたいていさくっと無視するんやけど今日は何となく無視する気になれん。まあ、やることもないし……一つだけ、なあ…。



「一つなんてケチなこと言っとらんでもっと叶えろ言ったります」
「言うと思った。それはなし」
「なして先輩が判断しはるん?もしかしたら聞いてくれるかもしれへんっすわ」
「えーそんなの特別な感じしないからダメに決まってんじゃん」



特別って何やねん。



「先輩は?何願うんすか?」
「わたしはね、」



光の願いごとを叶えてくださいってはにかんだなまえ先輩を抱き寄せてキスをした。



゚*。*。゚*。゚。*。゚。゜




先輩がおらんくなって1日が長くなったように感じる。つまらん、つまらんつまらんつまらんつまらん。先輩、どこにおるんすか。アンタがいなくなって全てがなくなってしもうた。
グレーのサングラスでもかけてるみたいに世界は灰色一色。視界は曇っとる。先輩、生きてるってつまらん。今日も俺は飯を食わんかった。昨日も一昨日も、もう腹が減ってるんかもわからん。一日中、先輩の面影を追ってるんすわ。一緒にとったプリクラ、保護しとったメール、謙也さんからもらった写メ、おそろいのストラップ、先輩が忘れていったシャーペン、デートで見た映画のチケット、先輩、先輩先輩、帰ってきてください。俺は、



「………」
「……、先輩…?」



先輩の声がした気がして窓を開ける。外に先輩がおった。はじかれたように外へ飛び出す。…先輩が、先輩がおる。



「……っ、先輩!」



走って走って、でも先輩との距離は一向に縮まらない。なまえ、先輩、
曲がり角で人にぶつかった拍子に体が後ろへ、尻餅をついた。



「財前!今お前ん家行こうとおも」
「のいてください!」



謙也さんに構ってる場合やないねん!先輩を追わな…!



「離してください!」
「……」
「…せっ、離せ!!」
「財前、…アカン」



こうしている間にも先輩がまたいなくなるかもしれん。今ならまだ間に合うんや…!俺を羽交い締めにしている謙也さんが、震えとる…?



「さっきな、学校に連絡があったんや…」



ぽつりぽつりと涙ながらに話すもんだから何を言っとるんかわからん。何が言いたいんや?嫌な胸騒ぎがする。



「なまえ、っ…死んだんや…」



そんなはずあらへん。今度こそ謙也さんを突き飛ばして先輩の後を追って走る。死んだ?そんなん信じられん。嘘や、やって先輩はここにおるんに。



「…なぁ、先輩…」
「……」
「……」
「財前、」
「何ですか」



掴んだ先輩の腕は氷みたいに冷たくて、顔も青白い。先輩、嘘やろ?死んだなんて嘘やろ?



「好きだよ」



たどたどしく冷たい唇をくっつけて先輩はすうっと空気に溶けた。





110216 chikura





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