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「…あ、れ」
部活中の財前を待っていると涙がポロッと溢れた。なんだこれ。コートで試合をしている彼に気づかれないように少しうつむく。拭っても拭っても涙は止まらず私の頬を濡らした。え、どうしたの私。とまれとまれ
「…どしたんスか」
「あ…よくわかんない」
気にしないで試合続けてとは言ったけど自分の彼女が泣いてたら気にしないわけにはいかないよね。ごめん。私部活の邪魔してる。泣き顔を見せたくなくてうつむいたままだから財前の顔は見れないけどきっと困ってる。私も困ってる。
「砂でも入ったんスか」
「違う」
「何かされたんスか」
「違う」
違う、んだよ。でも自分でもわからない。
私の頭にぽんと財前の手が触れて、子供みたいによしよしと撫でられた。
「先輩、」
「……」
「寂しいっスね」
私たちは先月、部活を引退した。白石がみんなをまとめていた男テニを今は財前が新部長としてまとめている。謙也も千歳も一氏も小春も銀さんも健次郎もいない男テニ。みんながいないテニスコート。あの喧騒はもう聞こえない。みんなが恋しい、あの日が恋しい。ああ私は寂しかったのか。口にも態度にこそ出さなかったけれど財前も私と同じように寂しく感じていたのか。
ぽたり
私の足元でアスファルトの染みになったのは財前の汗か。私の涙か。それとも、
鮮
や
か
さ
の
残
像
110121 chikura
そして迫るセピア