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散らかってるように見えて整頓されているわけでもなく、単に散らかっているだけー。いつも片づけてくれる蔵がいないから、ベッドの上は脱ぎ捨てた服が積み重なってる。ヤケ酒を止めてくれる蔵がいないから、チューハイの缶は床に転がったまま。そこそこ好きだったコンビニのパスタも、味気ないや。こんなんより蔵の作るご飯のほうがおいしい。
私の朝と夜は逆転していて、健康的な生活とはお世辞にも言えない。蔵がいるからまだマシになったけど、いつか栄養失調か貧血でぶっ倒れるんだろーなー、でもいいや蔵がいるしー。と思って好き放題やってた。ずーっといてくれるって甘えてた。でももし今倒れてもいない人に助けは求められない。一人で復活を待つのみ。むなしーい、呟いてみたら余計にむなしくなった。



「吸っちゃえ」



蔵に隠された煙草の在処は知ってた。嫌われたくないから禁煙してるふりしてたけど、実はこっそり吸ってましたすいませんごめんなさい。でも蔵と出会う前より、確実に吸う本数は減った。ベランダに干しっぱなしの洗濯物をかき分け、煙草に火をつける。吸いたかったのに、なぜだかそれを肺に入れる気はしなかった。煙が目に染みて涙が出てくる。



「……もしもし」



携帯から聞こえる声は間違いなく蔵で、私の声色に驚いている様子だった。慌てて泣いてないよ。と嘘をつく。蔵、私元気じゃない。蔵がいないから。お腹すいた。コンビニパスタより蔵の手料理が食べたい。帰ってきてよ。



「蔵に会いたい」
「……」
「観葉植物、枯らしちゃってごめんなさい」
「……」



蔵が大事に大事に育ててた観葉植物は私の部屋にあった。仕事でいない間にちゃんと世話をするよう言われてたのに、私はそれをすっかり忘れてた。そしたら葉の隅っこが茶色くなってて、それで蔵が怒って私の部屋に来なくなってしまった。初めてのケンカ。



「ごめんなさい」
「……」



泣いてないと言いつつ、私の声には嗚咽が混じっていて、それでも蔵は何も言ってくれない。ごめんなさいを繰り返す私に呆れているのだろうか。本当に今さらだけど、蔵に嫌われたくないと思った。



「もうええよ」
「ごめんなさい」
「ええから、ドア開けて」
「え」



鍵、忘れてしもて。
慌ててドアを開けると、何日かぶりの蔵が困り顔で立ってた。ぎゅうっと抱きついてもう一度ごめんなさいを言うと、ゆっくり髪を撫でてくれた。かと思えば、ばっと体を離す。



「早よう風呂はいってこい」
「一緒に入る?」
「お前が全身洗ってからなら考える」
「えーそんなヒドイ?」
「ヒドイてもんやないで…何日入っとらんの」



蔵を卒倒させたくないから答える代わりにさっさとお風呂場に向かう。



「なまえは俺がおらんとダメやな」



そう言う蔵はどことなく嬉しそうだった。




110930 chikura






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