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※教師設定
言葉が出てこなかった。口を開いては、閉じ、足りない頭で私が何を言うべきか、言葉を探す。組み立てる。でも口を開くと、何も言葉は出てこなかった。開いた唇から泡のようにしゅわしゅわと空気に溶けてしまう。虚しい行為。
「お前将来どうすんの」
床に脱ぎ捨てられていた制服のスカートを、ハンガーと一緒に投げられる。くたくたになったスカートを適当にハンガーにかけ、さっきまで裸だった彼の背中に飛びつく。
「やーめーろーよー」
ぴったりくっついた背中から抑揚のない声。お腹に足を回して、必死にしがみつく。おんぶされたまま形の良い耳にぱくりと噛みつけば、ソファーに倒された。
「何で服着てねーの。信じらんね」
「は、そっちが脱がしたくせに」
クスクス笑い合う。体を這う手と合わさる唇。好き。好き。大好き。どんなに頭で思っても、口には出せない。今さら届いてほしいなんて思ってないけど、遊びだなんて思ってないよ。私は。
冷たい目に熱くなる体。私のこと、馬鹿だって思ってる?先生、将来なんかどうでもいいよ。今生きてるのでいっぱいいっぱいなの。先生、好きだよ。
「将来っ…、」
「…ん?」
「しあわせ、なっ、お嫁さん、に…なる、よっ」
私と先生を隔てる薄いゴムなんか溶けてしまえ。先生は冷たい目を細めて「式には呼べよ」と笑った。涙は出尽くした。好きと言う努力の意味もわからなくなった。白濁の意識の中で、ただ先生のことを想ってた。
110929 chikura