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年は17歳の女子高生二年生。遊びたい盛りお金ほしい盛り怖いものなんてたぶんない。勉強はそこそこテキトーに。それより大事なのはイケメンの彼氏を作ることと遊ぶこと。今一番欲しいものはみんなが持てないような高いバッグもしくは財布もしくは服。なーんて嘘だけど。そこらへんにいるような馬鹿女子高生のふりをするのも飽きてきた。



「はじめましてー」



使い慣れた嘘の名前を名乗り、当たり障りのない挨拶を交わす。テレビでCMも流れている大手のコミュニティサイトで出会った人を相手にお金が貰えるだなんて上手い話あると思う?あるんだな、これが。こっちもタダとはいかないけど、そこそこ貰えるんだなこれが。腕を絡めると男はむっとした表情でこっちを見る。…あれま。今回の男は珍しく顔が良いことに気付きテンションが一気に上がった。名前、えっと…何だっけな。



「名前何て言うの?」
「は?」
「ほんとの名前」



知り合った場所が場所なので、私たちはお互いに本名を知らない。それにまさかこんなイケメンが相手だったなんて今の今まで知らなかったから、名前にも興味なかったし。覚えてないし。男は絡みついたままの私の腕に応えるでもなく、私を見るでもなく 「光。本名」 とだけ呟いた。いつもならそのあとに続く そっちの本名は? の声はない。変な人。



「どこ行く?」
「ホテル」
「…………へ」



あれよあれよと来る場所来ちゃいました。まじか。さっきわざといかがわしい言い方したけど、別に私援交してたわけじゃないんですけど。出会ったおじさんの話きいてそりゃあサービスしちゃったときもあるけどれっきとした処女だし、年も中3だし、ねえお兄さんアンタ顔良いんだから私じゃなくて他のお姉さんの方が楽しめると思いますよ。とかぐるぐる考えてるうちに流されて、脱処女おめでたくなくなくないです。イケメンだからま、いっか!とかちょっと思っちゃったのがいけなかったのだろうか。てかあれだね、セックスって面倒くさいんだね。処女だからかな全然気持ちよくない。あちこち痛いし。この人私と子孫作りたくないのに、こんなことするだなんてわけわかんない。アソコ痛いし。使用済みゴムの行く末をぼーっと見つめていたら光が私を見て馬鹿にしたように笑った。



「何?」
「いや処女やったんすね」



先輩。薄い唇がゆるく弧をえがく。



「…あんた誰?」
「光っすよ。四天宝寺二年の財前光」



ざ、いぜん…、?ひか、!



「何の真似っすか」



光は私に馬乗りにされてハサミを首にあてられても眉ひとつ動かさない。無造作に落ちたバッグの中にハサミが入っているのを見てから私の行動はまさに脊椎反射のそれであった。裏を返せば、脳で考えていないということであり、光に声をかけられてはっと我に返る。どうか、ハサミを持つ手が震えているのに気づきませんように。大丈夫、殺すつもりはない。光がこの事を誰にも言わないと約束してくれればそれで、でもダメかも。だって怯える素振りなんか少しも見せない。どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう



「…先輩、殺してくれはるん?」



……え、




ぐるんと視界が反転。状況も立場も反転。首にあたる冷たいものが何だってことは私が一番知っている。



「気ぃ抜かんといてくださいよ」
「…光」
「先輩俺がなして今こうしとるんか分かります?」
「わか、…私と会った、から、ネットで」
「ちゃいます」



光が何を言いたいのか、何をしたいのかわからない。口にすれば光はくつくつと表情だけで笑う。かと思えばハサミを持つ手はしっかりと固定したままに唇を重ねてくる。



「先輩ホンマおもろいっすわ。自分の立場分かっとるん?けったいやなあ」
「…離して」
「先輩が俺と付き合うてくれるんなら離したる」
「……」
「俺は先輩と死ぬんもええと思っとりますよ?」



嘘つけコノヤロウ。私は首を縦にふる。それを光がどっちの意味で解釈したのかは、わからない。



揶揄




0728 chikura
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霰ちゃんに捧ぐ





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