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俺は女特有の、あの作ったような笑顔が嫌いやった。これといって理由はなく、生理的に受けつけない。あえて言うなら、女の陰険なもろもろが苦手やった。腹ん中にどす黒いもんあるくせに綺麗に笑う。気味が悪いとしか言いようがない。あの作り笑顔は、無表情やしかめっ面を向けられるよりええんかもしれんけど、なんやゾッとする。気持ち悪いとさえも思う。ねっとりした顔、おぞましい。今朝方、目が合った通りがけの女に向けられた 作り笑顔 は冷や汗が出るほど気持ち悪くて、



「お前がそんなんやなくて良かったわ」
「え?何が?」



期間限定 と書かれた夏ポテトの袋を開けて顔をほころばせたそいつに あんな、 と話し出すと相づちの代わりに夏ポテトが咀嚼される音。扇風機はさっきから俺のところに風を届けず彼女の髪をなびかせている。



「女の笑顔はゾッとするわ」
「そう?」
「作り笑顔って言うん?あれ、苦手やねん」
「なんで?」



なんで? と聞かれて口元まで持っていっていた夏ポテトは彼女に食べられた。指についた塩まで舐められる。ようわかっとるけど、食べ物にかかるといやしいな。



「なんでって…それがわからんから苦手なんやろ」
「へえ」



いまいち反応の薄い彼女の手にあった夏ポテトの袋を奪ってざああと一気に流し食う。横ででかい叫び声をあげ、今にも掴みかからんとする勢いだ。



「何すんのよ!!!バカじゃないの?!」
「うっさ」
「財前のバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ」



馬鹿馬鹿とあまりにもうるさいので手で口を塞いでやった。一瞬にして静けさが辺りを包み、耳鳴りがしてしまいそうだ。扇風機はタイマー機能でもあったのか動きを止めてやはり彼女の方を向いていた。



「あんな、」



俺の手が大きいのか、彼女の顔が小さいのか、それとも何てことはない男女の体格差か、右手は彼女の呼吸を止めた。息をしていないはずの彼女は俺の嫌いな作り笑顔を向けている。何て静かな世界だろう。何て気持ちの悪い笑顔だろう。俺の愛した彼女は一体いつからこんな顔をするようになったのだろう。俺に向けていた笑顔が作り笑顔だったのか?始めから彼女は作った笑顔を俺に向けていたのか?だとしたら一体、彼女は何を考えて俺に愛されていたのか?考えれば考えるほど、わからなくて呼吸が苦しくなる。

もう何も見たくなくて、俺は両手で彼女の顔を覆う直前、「作り笑顔も財前が嫌いだって」彼女が呟いて俺の首に手をのばした。



110708 chikura





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