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どんどんどん!壁を打つ音で目を覚ました。どんどんどん!どんどんどん!ピンポンピンポンピンポンピンポン、どんどんどん!プルルルル、プルルルル、着信と客人は同一人物であるらしかった。口元の涎をごしごし拭いつつ、昨夜脱ぎ捨てたパーカーを羽織りドアを開ける。



「はよ開けろボケ」



盛大な舌打ちをかまし、ずかずか上がりこんできた男が機嫌を悪くしているのは一目瞭然であった。めんどくせえ。そう思いつつ彼の脱ぎ散らかした衣類を拾い、女臭いそれを洗濯機に放りこんで顔を洗う。バシャバシャ無心に水を浴びていると後ろから洗面器に頭を押しつけられ、突然のことに慌ててもがく。からんからん、スプレーが落ちて転がっていくのを遠くに聞いた。



「っはあ、ごほっ」



ひどく咳きこむと水垢のついた鏡の中で満足そうに微笑んだ彼と目があった。顔はもちろん、ターバンの外れた髪も服も、びしょ濡れで、灰色のパーカーは黒に色が変わってしまって水分を含んだそれを重く感じる。
私を虐めて何が楽しいのか。彼は決まって機嫌の悪いときに私の元を訪れ、こうして一歩間違えれば殺人まがいの嫌がらせをするのであった。パーカーを脱いでそれも洗濯機に放りこみ、下着だけの姿になった私を彼は珍しくもないだろうにジロジロ舐めまわすように見る。



「どいて」



出入り口を塞ぐ彼の横を通り過ぎると案の定、抱きかかえられベッドに落とされた。



「なあ、苦しい?」



首を絞められているのだから当たり前だろう。答えようにもあまりの力にかなわない。いつだったか、昼の人ごみの中で彼を見つけた事があった。隣には私とは真逆の、花柄のワンピースが似合う可愛い女の子がいて、いやそんなことはどうでもいい、彼が私の前では見せないような優しい顔をしていたことが、私は、私は



「     」



こぼれた涙を見て、彼は何を思ったのか私の耳元で最上級の愛の言葉を囁いた。嘘でもそんなこと言わないで欲しい。虚しさだけが増していくだけなのだから。




white room
白い部屋に消えていく




110612 chikura





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