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最初はただかっこいい人だと思った。顔が怖いくらいに整っていて、性格が良さそうで、完璧な容姿を持っているにもかかわらず、彼の奢った態度を私は見たことがない。少し変わっているところでさえも彼の個性で、それがマイナスになることはなくて。完璧な人。最初はそう思っていた。

今は彼を弱い人だと思う。




「…どこにも行かんで……」



私のお腹に顔をぎゅうと押しつけ、くぐもった声で私を失うのが怖いと言う。縋る目で私を見つめ、子供みたいにしがみつく。彼は私との僅かな隙間をぴったり埋めていると安心するのだと言っていた。



「…なあ、」
「…ん?」
「…何でもない」
「何よ」
「……」
「白石?」
「…好きや…」



本当に?じゃあどうして付き合ってくれないの?どうして彼女と別れてくれないの?どうして私を中途半端な存在にするの?どうして?本当に好きなの?
結局さ、白石は向き合えないんでしょ。私と離れることか、彼女と別れることか、どちらか一人を選ぶこともできないんでしょ。別れを言うことが怖い?嫌われるのが怖い?私が傷つくから?それとも彼女が傷つくから?それはさあ、白石の優しさ?違うよね。本当に優しかったらはっきり突き放してくれるもの。誰かを傷つけたくないの?私は白石の中途半端な優しさに、十分傷ついてるよ。




喉元まで出かかった言葉を口にしてしまえば、私たちがどうなるか。バッドエンドに間違いないことはバカな私でも容易く想像できた。責めて、責めて、彼を追いつめて、その末に私たちはどうなるだろう。彼はきっと ごめん と言う。私はそれ以上何も言えなくなって自己嫌悪に陥る。彼も自分を責めるだろう。私たちは終わりに、ならないかもしれない。でも始まりもしない。じゃあどうすればいい。私には彼を責める言葉しか思いつかない。



「どうしようもないね」



私は一人そっと呟いて、彼は聞こえてないフリをした。彼の背中に腕を回して、心臓をくっつける。隙間を埋めたのに酷く虚しくなった。



110523 chikura






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