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なんとなくかっこいいと思って、ちょっとだけ好き。かもしれない。
「飴あげる〜」
「ありがと〜!私これ好きなんだよね」
例えるならばこれくらいの好き。この四角くて甘い飴がコンビニになかったら別に他のにするけど、あったら買うみたいな。同じ学校じゃなかったらすれ違ってもときめかないけど、同じ学校で同じ学年でよく見るから、なんとなく。そんぐらいの好きなんだと思う。
怠そうに歩く財前くんの背中が渡り廊下の窓から見えたけど、すぐに見えなくなった。いつも目は合わない。背中で財前くんだとわかるのは、彼がシャツのインナーにいつも派手なTシャツを着てて目立つから。あとピアスとか、重ねづけのリスバンとか、声とか。だから、人ごみですれ違ってもきっとわからない。わかるほど好きじゃないはずだ。…って誰に言ってんだか。くるり、シャーペンを回す。
付き合いたいわけではないけど、仲良くなりたかったからメアドはゲットした。暇なときはメールする。話すことはどうでもいいこと。返ってくるのは大概、生返事。直接話したことは片手で数えるほどで。彼はあまり女子と積極的に話さないんだと思ってたから、別に気にしてなかった。そんな、直接、話したいってほど…好き、じゃない、…し。
「彼女できた」
初めてのメールで携番きかれて、電話かかってきて浮かれてて、なんか会話も弾むし、今日の私ついてるラッキー!って調子にのってたらこれですか神様。あんまりじゃないですか。まあ、でも、…そっか。いや、でも、そんなに好きってわけじゃ…ない、し…
「どないしたん?」
「…ごめん!電話切る…!」
プツッと切れた電話を握りしめる。着信履歴には"財前くん"の文字。財前くんのリダイアルには私の名前がある。それだけのことなのに私はバカみたいに泣けてきて、それが嬉しいからか悲しいからなのかわからない。画面がぼやけて、私は履歴を消した。
"財前くん を削除しますか?"
はい
゚
。
。
゜
゚。
今ならまだ大丈夫。こんなの傷ついた内にも入らない。大丈夫。明日彼が廊下を通っても私は気づかないようになる。あの背中を追いかけたりしない。だから、好きなんかじゃない。好きだったんじゃない。
誰かのブログの更新通知メールのせいで目が覚めた。まだ夜の10時で、ひどく瞼が重たい。ぼろぼろの顔のままに財布と携帯を手にして夜道を歩いた。薄暗い街灯が不思議とあったかく感じてまた泣きたくなった。ずず、と鼻をすすると静かに響いた。
「あー…」
「おい」
聞き慣れた声に振り向くとそこにいたのは紛れもなく財前くんだった。慌てて下を向くと「こない時間に何しとん」って横に財前くんの少し日にやけた腕が見えた。
「…なんとなく」
「んー」
このまままっすぐ行くとコンビニの流れ。どうしよう。帰ろうか。でも、どうしよう。たまに横か風に流れてくる彼のワックスの匂い。
帰るに帰れなくなって、結局コンビニ来ちゃったし。後をついてくのもあれかな、と思いつつ少し後ろを歩く。彼の手にコンドームがあったのを見てやっぱり帰ればよかったと思った。つーか普通横に女がいるときに買うか?それとも私は女としてみられてないってことか?バイトはチラ見してんじゃねーよ。私とヤるんじゃねーんだよ。彼女知らんけど、きっと可愛い子とヤるんだよ。私じゃない、誰かと。
昇華
(I loved you in reality)
110513 chikura