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水曜日はいつもよりちょっと早起きをする。甘い香りのヘアコロンをつけて、赤みのあるグロスをぬって、爪をピカピカに磨く。水曜日の小さな変化。
私の変化に誰も気づかないけど、誰にも気づかれちゃいけない。
◇
教壇に立つ先生を誰にも悟らないようにこっそり見る。水曜日の三限目は一週間に一回だけの、先生の授業。
蜂蜜色の髪が後ろの黒板の緑をあっちこっちに揺れて、みんなを眠くする。先生の授業ははっきり言ってすごくつまらないけど、私は先生を見てるだけでいいからいつもこの授業を楽しみにしてる。
「じゃあ次読んでもらおうかな」
キタ。先生の一言にみんな顔を下げる。私は下げたふりをしながら先生の胸元を見ていた。淡いブルーのシャツの下に私のキスマークがあることを、私の白いブラウスの下にもキスマークがあることを誰も知らない。
「じゃあー…えーと」
先生はいつも私をあてる。にっこりと微笑んだのが大人の愛想笑いだってことを私は知ってる。
だって先生はそんな風に笑わないし、名字じゃなくて下の名前で私を呼んでくれる。どっちも私の大好きな先生であることに変わりはないのだけれど。
みんなが座っているなか一人だけ立って、先生と向き合うと胸がドキドキする。いつもは私だけが先生を見てるけど、この瞬間だけは先生が私を見ている。
先生、そんなに見ないで。
昨晩の行為がデジャヴしてお腹の奥が疼いた。
110512 chikura
四万打御礼