※ただひたすらに重い



室町時代―――
宗太が彼女と会う半月程前の出来事。


その日は突然母が金を渡し、衣服を買うよう言ってきた。

村に暮らす子供が一人で町に買い物に出るなんて滅多にないのに、その日は本当に突然そう言ってきた。
珍しい事もあるものだと思いながら、宗太は二つ返事で了承した。
村から出る時、村人の一人が「気をつけてな」と言って、宗太もそれに元気に返事した。
ちょっと珍しい事があるだけの日だと思っていた。

けれど、再び宗太が村に戻った時、村は焼け跡となっていた。

村の近くまで戻ってきて、焼け焦げた匂いに気づいた。
不審に思って道を通らず、森を突っ切って近道して行くと、既に炭となっていた村に着いた。

村に動いている物は何一つなかった。
両親は無事かと思い、焼け焦げた村を自分の家に向かって走っていく中で、町に行く時声を掛けてくれた村人、昨日遊んだ友達、いろんな人が倒れていた。
誰も息は無かった。
友達には背中に大きな裂傷があったし、村人は半分炭になっていた。

そんな光景を見てなお、両親だけは無事であって欲しいと願い、家に駆け込むと、父も母も、ほとんど黒くなった家の中で倒れていた。
父はもう息絶えていて、母も、あなたは町に行って生き残りなさい、とだけ言って事切れてしまった。

その後、誰もいない村で二、三日はずっと泣き続けた。
あの日村で何があったのかはわからないが、後に聞いた話は"賊に襲われた""どこかの国の重要人物がいた""抜け忍がいた"などという、どれも噂の域を出ないものであった。

心の整理がある程度ついて落ち着きを取り戻した頃、宗太は母の言った言葉を思い出して村に残っていた食料をかき集め、町へ出た。
そして食料が尽き、途方に暮れた頃、彼女と出会った。





―――時は現代に移る。

宗太が小学校に上がって少ししてから姉・みさきの様子が突然変わった。
元々大人しいが決して無口ではない姉が、急に寡黙と言っても過言ではない程に口数が減った。
家族に対してもよそよそしい態度になり、父も母も心配していた。
宗太はその時どう思ったかは覚えていないが、構ってもらおうと妙に姉に引っ付くようになったのは覚えている。
だから、宗太もやはり心配し、そして寂しかったのかもしれない。

およそ半年後、姉の態度は元に戻ったが、自分が姉が変わってしまった歳になった時、夢で"不思議な世界"の事を見るようになった。
大きくなってからそれは"前世"の事だとわかったが、その夢の内容は当時十歳の少年にはあまりにも過酷すぎた。
焼けた村、死体、"両親"………。
夢を見るといつも泣いてしまったし、酷い時は吐いたりもした。
姉は宗太がそうなると黙って抱きしめたが、両親は、目の前にいるのにただひたすらに父と母を呼ぶ宗太を見て、度々病院に連れて行くかどうかを相談していた。

結局、宗太は中学に上がるまで"夢"に苦しめられる事となった。



「……そういえば宗太、今は大丈夫なの」
「何が?」
「ほら、前世のやつ。小さい頃酷かったじゃん」
「うーん……今は大丈夫かな。
 もう前世の事って割りきる事が出来るし」
「ふーん」
「で、姉ちゃんもどうなの?昔一回よそよそしくなったし」
「私だって今は大丈夫だ。
 昔はほら、年齢的に思考の方向が独特で、自分に関わった人が死ぬと思っちゃったんだよ」
「それあの人達に言うと笑われるよ」
「……………やっぱりアイツらと会った事あるんだ」
「えっ、あ……………ま、まぁ今は今だよ!」
「…はいはい。今回は流されてやるよ」







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しかも重い!ただひたすらに重い!