反転  


咽びそうな血の臭いと気持ち悪くなりそうな死体を目の前に、それらに必死に耐えて遺体の状況を調べていた時に事は起こった。

突然手元が暗くなり、何が起こったのかと周りを見回すと景色が驚くほど変わっていた。
部屋の中と入り口付近に集っていた生徒達はいなくなり、自分と隣の死体以外は色を失ったようにモノクロになっていた。

こんな所で顔の潰れた死体と二人きり。
カタカタと春の指先が震え始めた。

「だ……誰かいませんかっ……!!」

ようやく絞り出した声でそう叫んだが返ってくるのは静寂だけだった。
孤独感と恐怖に泣きそうになった時、部屋の入り口付近に光が集まり、次の瞬間女性が現れた。
和服を着ているが、こんなキャラクターいただろうか。

「お前が…八ツ代春で間違いないな」
「え、ええ…」

春の返事を聞き、女性は頷いた。

「あの…あなたは…?」
「ん?あぁそうだな、自己紹介をしていなかった。
 私は…そうだな………レイン。レインと名乗ろう」
「名乗ろうって……。
 いえ、そんなことより、どうなっているんですかここは?あなたは一体何なんですか?突然現れて」
「あー答える、答えるから落ち着け」
「落ち着けるわけないじゃないですか!他の人はいなくなっちゃうし、死体しかいないし、おまけにあなたは突然出てきて!」

レインと名乗った女性は熱くなった春を静かに見ていた。
言いたい事を言い切って、春は徐々に落ち着きを取り戻してきた。
そうなってから、レインは口を開いた。

「ここは…ミステリーでいう探偵の脳内のようなものだ」
「じゃあこれは私の脳内で起こっている事なんですか?」
「いやそういうわけではないが……考える所だ。
 敢えて名をつけるなら反転世界とでも呼ぶがいい」
「反転世界?何が反転しているのですか?」
「……色?」

言った本人であるレインが疑問形でそう言った。
多くの色が溢れる世界からモノクロの世界に変わる、ということだろう。

「私はお前のガイド役のようなもんだ」
「え、私のガイド…?」
「死体もまともに見られず、ミステリー好きといっても推理は出来ず、更に味方もいない。
 そんなお前のガイド役だ」

歯に衣着せぬ言い方に怒らなかったわけではないが、事実なので春は何も言い返せなかった。

「それに、この世界の場合、犯人は外部からの敵という考えも出来る。そうなったらお手上げだろう?」
「…でも、あなたは本当の事を言うんですか?」
「そう言うと思ってな、この文字を用意した。
 ほら、『うみねこのなく頃に』で赤文字というのがあっただろう?
 それからちょっとお借りして、この下線のある文字は証明不要の真実である。

「…本当ですか?」
赤が真実を語るように、この文字は真実しか語れない。
 では早速ゆくぞ。
 犯人はこの学園の関係者である。そしてお前は犯人を知っている
「ということは、いわゆる『モブキャラ』は犯人ではないということね」
「といっても凶器も犯人もさしたる問題ではない。お前にとっても私にとっても一番重要なのは殺害動機だ
「それってどういう…」
「あぁ、言い忘れたがこの時間は唐突に訪れ、唐突に終わる。もう十分ヒントをやったからさらば!」
「なっ…!ちょっと待…!」

次の瞬間、元の景色に戻った。





現在の容疑者:モブ以外




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