現場検証B  


ちょうど真下にあった机を踏み台にして、春は天井の板に触れてみる。

「(本当に…動くのかな……?)」

そう思いながら物は試しだ、と上に押してみた。
すると、レインの言う通り灰色の天井板が動いた。

「ほら、動くだろう?覗ける程度に開けておけ」

春は自分があまり信じていなかったのが見透かされた気がして一瞬ドキリとしたが、からかうように軽い口調のレインに安心した。
そして人ひとり入れる位の大きさに天井板を退けた。

「レイン、明かりは?」
「ん〜……反転世界において、事件に関する物は色を失わない

つまり、明かりはいらないらしい。
そう解釈して春は天井裏を覗きこんだ。

「ひっ…!」

思わず小さな悲鳴が出た。
暗い天井裏に赤い血痕がポツリポツリと一列に並んでいる。
血液は酸化すると黒く変色するんじゃ無かったのか。
……レインの言っていた『色を失わない』とはそういう意味だったのか?

「レイン……!」
「ほら、これを辿ればお前の言う本当の現場に着けるのだろう?」
「私は!私は……!」

「殺されたいのであれば好きにするがいい」

笑みを含んだ顔でレインがそう言った。
確かに、思い出してみれば、自分が犯人にされそうになったから『犯人を見つける』と言ったのだ。
ここで犯人探しを止めてしまえば補正に掛かった彼らによって犯人として殺されるだろう。
だからといって、今まで実際に殺人現場を見たことの無い自分にこんな物を見せるなんて……。

「(それに、笑顔で言わなくてもいいじゃない……!!)」

レインは目の前の春の怒りを感じているはずだが、相変わらず笑みを含んだ表情をしている。
そしてレインは再び口を開いた。

「とにかく、これでわかっただろう?
 死体には顔から結構な出血があった。
 それはお前がその口で言ったように、致命傷となった腹の傷より後に出来たものでは無いという事の証明である。
 つまりこの天女と呼ばれた者は生きながらにして顔を潰されたということだ!!

「レイン!どうして!どうしてそんな事わざわざ言うの……!?言わなくっても良いじゃない!!」
「事実を確認するのは必要なことだぞ?お前こそ犯人探しをする気があるのか」
「あるわよ!あるけど!………こんなの……もう嫌……!」
「……そうか」

そう言ってレインが消えた次の瞬間、反転世界に入る前の所にいつの間にか居て、天女の部屋を覗いてみても自分が退かした天井板は何も無かったように元に戻っている。
そこまでしてから周囲を見回し、反転世界から戻った事を悟った。

「(…いいもん……レインがあんな言い方するのが悪いんだから……)」

少し寂しさを感じながらも、春は心の中でずっとレインに対する怒りを愚痴り続けた。







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