現場検証A  


「そろそろ天女様の遺体を片付けるけど良い?」

次の日、善法寺にそう問われたが、春はすぐには答えられなかった。

「(レイン!いるんだったら来て!)」

答えはなかった。

見落としがあるかガイド役のレインに尋ねようと思ったのだが、思い出してみると反転世界が訪れるのも全て彼女の気分次第なのだ。
そんな彼女が素直に応じてくれるとは考えにくい。

「ええと……はい、構いません………たぶん…」

不味かったらレインが言ってくれるだろうと自分を納得させ、了承した。


死体が運ばれた後、天女の部屋に入ると視界がモノクロになった。

「レイン!」
「昨日ぶりだな、春」

先程呼びかけてもやって来なかったレインが現れ、本当にこの人の気分次第だな、と春は思った。

「さっき来てくれても…」
「まぁ良いではないか。さて、現場検証に移ろうか」

レインはそう言って死体のあった所に目をやった。

「何か気が付くことはないか?」

そう問われ、春も見てみる。

畳に血痕が広がっているだけで特に不思議な所はない。

「わからんか。では大ヒント。
 あの天女と呼ばれた奴の致命傷は左腹に貫通している傷である
「し、死体が無いのにどうしてそんなこと……!」
私はガイド役だ。それに昨日言っただろう?この文字は証明不要の真実だと

春は黙ってしまった。
そして、再び死体のあった所に目をやった。
しばらく(若干震えながら)じっと見ていたが、何かに気付いたのかバッとレインの方を見る。

「壁に寄りかかっていた上、貫通していたのに……壁に血痕が無い!」

レインは満足した様に笑顔で頷いてみせた。

「ということは?」
「え?………どこか違う所で殺された…………とか…………」
「では…どこで?」
「そ、それは……まだ………」

春は少し落ち込んでしまったが、レインは何かを待っている様に何も発さずに春を見ている。

しかし、しばらく経っても春は何も言わず、頭の中で考えていた。
レインはハァとため息を吐き、

「よーく考えりゃ特定は可能だ」

と言った。
春はまたしばらく考え、そのうちバッと顔をあげた。

「血痕!畳の上に残っているんだったら、運んだルート上にもあるはず!」
「あの死体は顔が潰れていたが、ここに運んでから顔を潰せば血痕は残るのではないか?」
「えっ………あ!
 左腹ってことは太い動脈が通っている…はず……。だから運んでから顔を、その……潰したってあまり出血はないと思うの」
「ほぅ」
「だから、天井裏か床下に血痕があるはず……!」
「では見てみるが良い」
「え?」

春は天井を見上げるが、白黒の天井板はとても動きそうに見えない。
それをレインに視線で訴えたが、彼女は相変わらず笑って言う。


「一体いつ、誰が、反転世界で物は動かせないと言った?」







夢小説とは何ぞや




BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -