▼ 後日談
彼女の墓は希望通り誰の目にも触れぬような所に作られた。
下級生が置いたのか、拙い花輪が供えられている。
二人は墓の前にやって来た。
「多上さんは、さぁ……」
一人がそう切り出した。
「一体何を思って……僕達と接していたんだろうね……」
しばらく間があって、違う声が「さぁな」と返した。
すると最初の声がまた響く。
「ちょっと前、皆で謝ったじゃない?
あの時、誰が本気で謝り、誰が嘘を吐いたんだろうね」
「……本人の墓の前でする話じゃないだろ」
「多上さんはそれに気付いたから、なのかなぁ……」
「………そもそも、本当に死のうと思って死んだのか?」
その疑問に、『どういうことだ』というように最初の声の主が顔を上げる。
もう一人は続けずに、顎に手をあてて考え始めてしまった。
最初の声の主はやれやれといったように笑い、
「そう考えるって事は何か理由があるんだろうけど………
それこそ本人の墓の前でする話じゃないね」
とだけ言って二人とも黙ってしまった。
それからしばらくして、後の声の主が口を開いた。
「お前には言ってなかったが……お前が孤児少年と呼んでいる奴と、何回か話した事があるんだ」
それを聞いた一人が目の前の彼女に言っているのか、とわかり、その言葉に続けた。
「そうだね……あなたには言ってなかったね……。僕達が何回かあの少年と接触したこと。
あなたの本性がわかるんじゃないかって」
「結局、成果はなかったがな」
「そうそう。
むしろ僕達が、少年が死なないよう面倒みたりしたし、
少年が助かる見込みがないと思ってからは、あなたが外出しないよう、無理言って休日に偽の仕事作ってもらったし。
でも……まさか町の人があなたに話し掛けるとは思っていなかったから……さ。
僕達は、少年が亡くなったということを知らせずに旅に出たとか言うつもりだったんだけどね……」
彼はアハハ、と軽く笑った後、
「そうだ、一つ言うことがあったんだった」
と言って懐から何かを包んだ紙を取り出した。
「それは……?」
「多上さん、あなたが亡くなる少し前に焼いていた物です。
自分がいた跡を残さないつもりなら、ちゃんと燃え切ったか確認しないと……」
「……それは?」
「多上さんがここに来た時に着ていた、多上さんの唯一の私物」
「あぁ……白い服だから血を落とすのが大変だったっていう……」
花輪の手前にそれを置き、二人揃って手を合わせた。
「せめて、あなたの見る夢が幸せであるように」
prev / next