無関心でありたいのにいられない | ナノ


▼ Road to the next

気がつくと黒い空間に立っていた。

崖から飛び降りて…どうしてこんな所にいるのだろう。

「気がついたか」

後ろから声がしたので振り向くと和服の女性が立っていた。
床も無いのに立っていると浮遊感のような気持ち悪さを感じる。
女性はそんなことを気にも止めていないのか薄く笑っている。

「………あなたは誰」
「私はお前をあの世界に送り込んだ神だ」

うわ出た、夢小説でよくある神様。
一回も会わなかったからいないと思っていた。

「お前があの世界に来た時点で、超自然的な力が働いたと考えられる。
 故にお前が私に気付く要素はあったのだがな……。それに会うのはこれで二回目だ……。
 まぁいい、さっそくだが本題に移ろう。
 お前は今回死を選んだ理由は何だと考えている?」
「……………」
「答えたくない、か。まァそう簡単に心情を吐露出来る者など幼子か純粋過ぎる者、もしくは相当なバカだけだ。
 だが安心せよ。
 ここは死後にして生前である。当の本人であるお前ですらここで起きた事、話した事は忘れる。
 さて、今一度問おう。お前自身は何が死を導いたと考えている、多上みさき」
「……遺書に記した通りだ」
「やれやれ、まぁ良しとしよう。
 ちなみに私の考えとしては、
 大きい物が孤独感、少年を死なせてしまったのではないかという罪悪感、そして己の中の矛盾。
 小さい物が彼らを信じて良いのかという不安、信じたくとも信じられない悲しさ、そして少しばかりの居心地の良さに対する空しさ、だ」

そんなことはない、と言い返せれば良かったのだが、何故だかそんな気は起きなかった。
つまり、図星、なのだろうか。

「私の中の矛盾……」
「うむ。心当たりはないか?
 そうだな……謝られた時があっただろう?
 その時、お前は何故疑わなかった?」
「…!それは……」
「上っ面だけの謝罪なのかもしれないのにお前は信じ、あまつさえ申し訳なく思うときた。
 自己分析の死因は人間不信だというのになァ?」

確かに、よく考えればそうだ。

「これが…矛盾……」
「そうだ。その様なものが複数あり、お前の精神に不安定さをもたらした」
「でも孤独感は……!」
「無かったとは言わせん。何しろ、その前の時もそれが理由で思い詰めたのだから。
 孤児少年が死んだ事で心の支えが無くなり、お前は言い様のない程の淋しさがあったはずだ。
 そうでなければお前が人肌で泣くなど有り得んからな」
「…………」
「誰かにぶちまけたくとも相手が傷付くのが嫌、という、優しさと呼べるかどうかわからん物もまた一因だろう」

……言葉にすると随分簡単になってしまうものだ。

「そう、その通り。お前の苦しみがどれ程のものか、我らはこうして推測するしかない」
「我ら……?」
「死を選ぶ程のお前の苦悩などお前自身にしかわからん。
 我らがお前の心に涙したとしても、お前の悲しみの半分にも及ばぬだろう」
「……何のために私の精神分析をするの」
「一度でもお前が現実に向き合ったという事実が欲しいからだ。
 人は死して生の海へ還る、しかしお前は海に浮く小舟よ」

……意味がわからない。

「本来自殺者は地獄に堕ちるが、私の私情に巻き込んでしまった謝礼としてもう一度生まれてこい。
 それにお前の本当の願いを叶えてやりたい」
「は?私情?私の本当の願い?」
「あ、後お前が十になったら前世を思い出すようにしよう」
「いえ、結構です」
「大丈夫だ。記憶の保存は出来ても感情の保存は出来ん」
「………は?」
「ほら、今のお前が祖母の事を思い出してボロ泣きするかァ?しないであろう。
 悲しい事を思い出しても、一部の例外を除けばその当時と今では感情の程度が異なる。大体は衰退する。
 そういう事だ」

そう言った時、彼女の瞳が一瞬揺らいだが、そんな事を気にしても仕方がない、と気にしないことにした。

「……だが転生したという事実はいずれお前達に残酷な意味を以て迫ってくるであろう」
「……あの、話をずらしますが……私が死んだ事は責めないの」
「本来はそうすべきだろう。だが、ここはお前の心を明らかにする場だ。罪を問う所ではない。
 それに……私自身が死に対して一種の憧れを抱いているからな」
「死ねないから?」
「そうだ。死ぬ神もいるがな。
 人であれ神であれ、己の持ち得ぬ物は欲すのだ。
 ……己の持つ物になど見向きもせずに、な」
「神様も転生とかあるの?」
「誰もしたがらぬ、故に知らん」
「……なんで」
「何千何万と生きた神々が、どうして言葉もまともに話せぬ赤子に戻れようか。
 ……あぁ、済まん。そろそろ時間だ。
 では行ってこい!」

ボヤけていく景色(といってもほぼ黒一色だが)の中、彼女の最後の声が聞こえた。



「全てが思い出になった時、赦し合えると信じて」





心理的解説編

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