無関心でありたいのにいられない | ナノ


▼ 時間の問題

「…多上さん」
「すみません」

善法寺の口調は咎めるようなものだったが、視界の端に見えたその顔は心配に満ちていた。
まぁ傘ささずに雨の中にいりゃ風邪ひくよな、そりゃ。
医務室の天井とにらめっこをしながら善法寺に返事をすると小さな溜め息が聞こえた。

「私をここまで運んでくださったのってどなたですか」
「……………本人から口止めされているんだ。ごめんね、内緒」

一瞬彼が悲しそうな顔をした気がした。
何故だろうか。

それにしても、あの時の声の主は誰だ。
背中で泣いてしまったのを謝ると同時に口止めしたい。

「多上さん、前みたいに…いや、前より酷い敬語になっているよ」
「…すみませ……」

これも敬語か。
親しい人には何て言うのだったか…。

そんなことすらパッと出てこなかった。

あぁ、もうダメだなこりゃ。

「…すみません、心の整理がつくまで、これでお願いします」



しばらく医務室生活が続くと告げられた。
ただの風邪なのに何故。
善法寺に訊いてみたら「風邪を甘くみちゃいけないよ」と言われたが、何か腑に落ちない。

お見舞いで色んな人が来たが、敬語は抜けなかった。
「精神的なものだからゆっくりでいい」と言ってくれたが、申し訳なかった。

そして今日も今日とて、訪問者がいる。
斉藤with綾部だ。

「多上さんはみんなの接着剤みたいなものだから、早く良くなって欲しいな」
「接着剤…ですか」
「そう。僕達がバラバラになった…壺か何かの欠片で、多上さんが接着剤。
 多上さんがいたから、元の形に戻れたんだ」

…私がいる時点でそれは元の形ではない。
あくまでも"多上みさき"という人間を受け入れた、ただ原形に近いだけの新しい形だ。
失ったものが元に戻る事などほぼゼロだ。

それなのに私に何を求めている。

だがそんなことをおくびにも出さずに

「そうですか。より療養に努めましょう」

と言った。
斉藤は「うん。早く良くなってね」と言ったが、綾部は何も言わずにジーっと私を見ていた。







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