「でも、起きてたんなら声かけてくれてもいいじゃない。寝たふりなんかしなくったって!」

むくれるリディアが当然の文句を口にすると、エッジはにやりと口端を上げて顎に手をやり、何かを思い出すような遠い目をする。

「まあそうだけどよ、ちょっといい夢見てたもんでな。も一回見れるかと思ったんだけど、やっぱ無理みてぇだな」
「え……ご、ごめんなさい」

その言葉にリディアはさっきまでの強気な態度とは一転、申し訳無さそうに瞳を伏せた。
自分が起こしてしまったからだと責任を感じて、しゅんと小さな肩を落とす。

「バカ、いいって。……やっぱ、夢より本物の方がいいしな。まあでも、お前にはまだちょっと早いか」
「え?何の話?」
「いや何でもねーよ、こっちの話。それよりどうしたんだ?何か用があったんだろ」

しょげてしまったリディアの頭を撫でながら、エッジは優しく問い掛けた。

リディアが顔を上げると、いつもは鋭いエッジの瞳がそっと細められている。

その眼差しは何だか優しくて、暖かくて。口には出さないけれど、リディアはその瞳がとても好きだった。 
大きな手の平は包み込むような安心感を与えてくれて、くしゃくしゃっと撫でられると髪が絡まるから困るけど、これだって決して嫌いじゃない。

そんな事を思いながらリディアはちょっとだけ嬉しそうに笑うと、明るい声でエッジに答えた。

「うん、天気がいいからどこか行こうかと思って」
「おっ、お誘いですか、お姫様」

冗談めかしてエッジがそんな風に言うものだから、リディアは一瞬驚いて目を丸くする。
しかしやがてくすくすと笑うと、覗き込むようにエッジを見つめた。

「なあに、それ。私、お姫様じゃないよ」
「お前が王子に見えねーって言うから、それっぽくしてみたんだろーが」
「全然違うし、似合ってないもん」
「お前なあ……まあいいや、俺もそんな柄じゃねぇ。ほれ、行くならさっさと行くぞ」

声を上げて笑い始めたリディアに、エッジは罰が悪そうに頬を掻きながら背中を向けて立ち上がる。

エッジが頬を掻く時は照れている時だと、リディアが気付いたのは最近のこと。 
うん、とリディアが返事をすると、エッジは後ろを向いたままそっとリディアの手を引いた。

リディアもその手を握り締める。

エッジの手の平は、大きくてあったかい。



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