「私なんかでよければ、是非踊らせて下さい。ご期待に添えるか分かりませんけど、頑張りますね!」


若葉のような鮮やかな新緑の髪と、深く澄んだ翡翠の瞳を持つ少女は、そう言って花のような笑顔で笑うとくるりと身軽に回って一礼をしてみせた。

その笑顔と、少し悪戯っぽい仕草が何だか可愛らしくて。
不覚にも、見惚れてしまっている自分がいた――




「すまない、ちょっと通してもらえないだろうか」

今だに興奮醒めやらぬ人々の間を縫って、セティは丁寧に受け答えしているリーンの元へと近付いて行く。

このままでは永遠に続きそうな位、人々の感心を引いている彼女を解放してあげなければ。
激戦が続く中、やっと取れた一日しかない休みを無理に頼んだのだから。


風のような身のこなしでするりと人並みの間を掻い潜って傍まで近づくと、セティに気付いたリーンが少し驚いたような声を上げた。

「セティ様!見てくださってたんですか?」

周りに群がっていた人々はセティの姿を見るとリーンから離れ、皆次々に頭を下げる。

この地でレジスタンスのリーダーとして民を守る為に戦い、マンスターの勇者と呼ばれたセティに誰もが尊敬と感謝の念を抱いていた。

その上彼は解放軍の軍師であるシレジア王レヴィンの息子。
つまりはシレジア国の王子であり、聖戦士の血を引くフォルセティの正当なる後継者なのだ。

セティは控え目に人々に答えつつ、その端正に整った顔をリーンに向けて、真摯な瞳で礼を述べた。

「勿論だ、少し遅れてしまったが……本当に素晴らしい踊りだった。ありがとうリーン」

柔らかい笑みを浮かべるセティにリーンは少し驚きつつも、お世辞ではないということを感じ取って嬉しくなった。

「ふふっ…ありがとうございます。セティ様に誉めて頂けるなんて、嬉しいです」

そう言ってリーンは目の前の青年を見る。

リーンは地位も何も無いただの踊り子だったから、セティが『町の人の為に踊って欲しい』とわざわざ直接頼みに来たときは心底驚いた。
直接会ったことがなくてもその名前は耳に入っていたから、そんな大層な人が自分に用があるなんて思ってもいなかったのだ。

もっともこの軍には各国の王子や公子が沢山いて、その誰もが身分など関係なく気さくに話してくれるのだが、それでもやはり緊張する。
とはいえ、自分の躍りが少しでも力になれるなら、それはとても嬉しい事だから――そう思い、リーンは快く了承したのだった。


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