何故自分でなければいけないのか――確かに黒魔法に関して言えば、自分以上に長けている者はここには居ない。世界中探したって、きっと数える程しか居ないだろう。
それはパロムにとっての誇りであり、今までの経験から得た大切なものであるから、彼は驕りも謙遜しない。ただ事実として受け入れているだけだ。

とはいえ、それ以外は何も分からない。賢者になると息巻いていても、結局何が出来たでもないのだ。

あらゆるものに触れて、あらゆる事を学ぶ事が必要だと思って、見聞を広げようと海を渡って見えたものは、目指すべき頂の高さと――果てしない程の、道のりの長さ。

そして賢者いうものの、余りに曖昧過ぎる定義。

『賢者は、自分で名乗るものじゃない。いつしか人々に、そう呼ばれているものよ――』

ただがむしゃらに突き進んで周りも己も顧みなかった自分に、いつだったか嗜めるように姉がそう言った。

分かったような事を、とその時は思った。全ての魔法を極めて力を手に入れる事が全てだと、信じて疑わなかったから。

今になっても『賢者とは何か』と聞かれれば、明確な答えは返せない。
だけど自分の大切なものを失ってまで得た力に何の意味もないと、それだけは分かった。だからこそ自分は今、この生まれ育った町にいるのだ。

「……何で、あんたはそんなに一生懸命なんだ?」

パロムの口をついて出たのは、素朴だけれど前から思っていた、純粋な疑問だった。

そもそも彼女は神官になりたかった筈だ。
その為にパロムに付いて怒鳴られ、笑われ、呆れられながら魔法を会得し、ようやっと神官として認められたのだ。

自分より神官に相応しい人は沢山いるからと彼女は言ったが、客観的に見ても魔法を操る技術もその真っ直ぐな性格も十分、神官に相応しいとパロムも思う。

何も敢えて茨の道を歩まなくとも、輝かしい未来がある。
なのに何故、賢者になりたいというのか。

ましてや賢者なんて『こうなればなれる』というものじゃない。

形の見えないゴールほど、遠いものはないんだ。

「そんなの、決まってます」

ふんわりと彼女が笑う。
彼女の纏う雰囲気はどこまでも柔らかくて、周りの空気もするすると溶けて解けてしまいそうな程に穏やかな時間が流れる。

「……パロムに認めてもらいたいからです。同じ頂を目指す仲間だって」

その瞳は曇りが無くて、彼女の気持ちを真っ直ぐパロムの元へと届けた。

最初から、分かっていたんだ。
後を追うでも、追われるでもない。肩を並べて歩ける関係――それでこそ、相棒なんだと。


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