「ぶはっ!何やってんだよあんた!」 「む……むせちゃ、げほっ、げほっ!」 「ははっ……なんかカエルみてえ」 「ひっ、ひどいです!げほっ……」 あまりに酷い言い草に彼女が目に涙を溜めながら睨むが、いかんせんちっとも迫力がない。 崩壊した腹筋を押さえるパロムの目尻にも、うっすら涙が滲む。 爽快な笑い声をひとしきり上げ終えたパロムがふと目線を上げると、しょげているかと思っていた彼女がひどく優しい面持ちで――パロムのことを見つめていた。 「でも……いいです。パロムがそうして笑ってくれるなら」 木漏れ日のような穏やかな微笑みが、パロムに向けられる。 宵闇に包まれた中でも、うっすらとした温かな輝き。 パロムの胸を一瞬で貫いておいて、彼女は何でもなさそうにスープを啜る。パロムは訝しげに顔を歪めて、彼女の隣の空いている席におもむろに腰掛けた。 「なあ」 「何ですか?」 「あんたは何でそうなんだ?」 「え?」 かしゃん、とスプーンを置く鈍い金属の音が響く。 疑問符を浮かべた彼女の瞳を直視出来ずに、パロムは目線を空に向けた。 大きくもたれかかった椅子は軋み、壊れた楽器のような音色を奏でる。 「あんたは別に俺の言うことをいちいち聞く必要なんて無い。そりゃまあ魔導の道を進むならミシディアに居た方が何かと都合はいいだろうけど、あんたなら自分でだって学ぶ事は十分に出来るはずだ」 「えっ、え?」 「何もこんなひねくれた奴に聞かなくったって、他にも指導できる奴はいるだろうし……まあ俺は確かに天才だけど、白魔法はからっきしだし、それに」 「ちょ、ちょっと待って下さい、パロム!」 がたり、と彼女は椅子をはねのけて立ち上がる。 弾みで神官のトレードマークでもある細長い帽子が脱げて、ふわふわとした髪が解き放たれたように自由な広がりを見せた。 絵の具をそのまま塗り潰したような、周りを照らす、明るい黄色―― 「わ……私、何かしちゃいましたか?魔法をぶつけたから、嫌になっちゃったんですか?それとも、やっぱりドジばっかりしてるから……だから、嫌になっちゃったんですか?」 「違うよ。そうじゃなくて、俺が聞きたいのは……」 「私は、パロムがいいんです!パロムに教えて貰いたい……パロムじゃなきゃ駄目なんです!」 まくし立てる彼女の剣幕に思わず圧倒されそうになる。 でもパロムには分からなかったのだ。懸命に訴え掛ける彼女の真意が。 |