「……パロム、変わったよね。あの娘が来てから」
「何が」
「何ていうか……優しくなった、かな?何だか毎日楽しそうだし」
「なっ……!」

かしゃん、とパロムの手元を離れて音を立てた食器を、ポロムが慌てて拾い上げる。
あーあ、と呟いて僅かに零れた食事を片付けるポロムの声は、既にパロムの耳には入っていない。

ぐるぐると頭に回るのは、絵の具を塗り潰したような淡い明るい黄色――
自然の光の中でこそ映える、控え目だけれど美しい黄色。


――自覚はある。あいつと一緒に居ると、何だか調子が狂ってしまって。自分らしくないと思いつつも、ついつい世話を焼いてしまったり。

それでも他人に。ましてや実の姉にそれを指摘されるというのは、やはり勝手が違うものだ。

慣れない事なんてするんじゃなかった――襲い掛かる後悔の念に、もういっそのこと呼び付けてここで食べさせてやろうかと思ったパロムの思惑を、綺麗に食事を盛り付け直したポロムのソプラノがあっさりと切り裂いた。

「はい。ちゃんと持っていってあげて。冷めないうちにね」
「あのな、別に俺は……」
「はいはい。分かってるから」

一体何が分かっているというのか。
有無を言わさぬ口調で、まるで動物でも追い払うように手を払うポロムを一瞥し、パロムは湯気の立つトレイを溜め息まじりに運んでいった。

いまだ真摯に机に向かっているであろう、彼女の元へと――





*****





「あっ……パロム!」
「気付くのが遅い。戸、押さえてろ」
「は、はいっ!わあ、美味しそうですね」

漂う匂いにつられるように、ひょこひょこと戸口に近づいてくる彼女。

ようやく空腹に思い当たったらしく、「そういえばご飯食べてませんでした」と一瞬にして泣きそうになる。
そんな彼女を軽く押し退けて、パロムは空いている適当な席にやや乱雑にトレイを置いた。

「ほら、さっさと食べろよ」
「ありがとうございます……パロム、わざわざ持ってきてくれたんですか?」
「見れば分かるだろ。食わないんなら帰してくるぞ」
「たっ、食べます!」

そして勢い良く食事を口に運んで、彼女は大いにむせ返った。

予想通りというよりは、かなりの規格外。
涙目になっている彼女を眼下に見下ろして、パロムはついに笑いを堪え切れずに吹き出した。


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