「……パロム?」


背後から聞こえてきた声に、パロムはどきりと身を竦ませる。

産まれた時から耳馴染みのある、澄んだソプラノの声。
面を向ければ、実の姉であるポロムが不思議そうな面立ちで、パロムの手元にある食器を見つめていた。

「どうしたの?パロムが食堂にいるなんて、珍しいね。食事なら家にきちんと用意してきたのに」
「あー……、いや、ちょっとな」

別に悪い事をしている訳でもないのに、まるで悪戯が見つかってしまった子供のように背中を丸めてしまうのは、条件反射なのか何なのか。

ここに来た理由を考えれば説明するのは気まずいけれど、だからといってまさか無視する訳にもいかない。

この目の前に立つ清廉な姉が、気丈に見えて意外と些細な事で傷つく性格だということをパロムは知っている。
他人からしたらどうでもいいような事を、うじうじといつまでも気にするタイプだ。

それでいて強がりで、弱みを表に出す事はしない。特に親しくない相手には、尚更のこと。

同じ時に同じ腹から産まれ、同じような環境で育ってきた双子の半身はやはり自らと同じように――周りから身を守る術を、他に知らなかったのだろうと思う。

歳を重ねる毎にすれ違ってしまったけれど、それはきっと似過ぎていたからだ。

同じ境遇で育ち、同じ魔導の道を選んでいても、違う人間である限り必ず道は別々になる。
今まで共に歩いてきた道を分かつ事への恐怖が――元々一つのものだった二人に微妙なズレを生み出していたのだ。そうパロムは解釈している。
そしてそれは、とても自然なことだった。とも思う。

「いや、あいつまだ飯食べてないみたいだから、持っていってやろうかと思って」
「えっ?」

きょとん、と彼女にしては珍しく、面食らった顔をポロムはした。

緩やかに結い上げられた桃色の髪が、ちらちらと視界の端に映る。
艶々としていて綺麗だけど、何処か不自然な感じを受けるのは、本来持っている色を塗り替えてしまったからだ。

自分と同じ栗色の髪を無くしてしまった彼女を当初見た時は本当に驚いたが――別段パロムはそれについて、寂しいだとか悲しいという感情は持ち合わせなかった。

だだ、きっと彼女にとっては、『私とあなたは違う人間なのだ』という主張であって、パロムもそう理解して受け止めた。ただ、それだけの事だった。

何が変わろうともこの血の繋がりだけは、未来永劫変わらないのだから。


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