大体あいつは、あの戦いの時でも、ここミシディアに来てからも、いつでも俺の後を付いてくる。

いつでも、何処でも。
ちょこちょこと後ろを付いてくる様は相棒というよりは、まるで主人の後にべったりとくっつく忠犬のようだと思う。

気に入っているのか何なのか、いまだに身につけている神官の衣裳はぶかぶかで、長い袖はすっぽりと手を覆い隠してしまっている。

裾は引きずられて、歩く毎に無残にも踏み付けられているし、転びそうになるのはしょっちゅうの事。そしてその度、不思議なくらい必ずどこかを擦り剥いてくる。

鈍臭い。天然。鬱陶しい。
全ての行動が俺の想像を超えていて、その言動はわざとかと思うくらいに、全てが少しづつ的を外している。

なのに。
いつからなんだろう。そんな彼女から目が離せなくなってしまったのは――






*****




太陽が頂上に登り、その姿を水平線に消しても、彼女はまだ無言で机に向っていた。

新しい――先だっての戦いでボロボロになってしまった事もあって、『より良い魔導士の育成の為に』とかもっともらしい理由を付けて、新しく机と椅子が購入されたのだが――そのぴかぴかの机に沿うように、彼女の長い黄色い髪が、薄暗い光の中、淡い光沢を放っている。

パロムが出した課題は、とてもじゃないが一日で終わる量ではなかった。
どうせ仕上がらないし、もし万が一に片付いたとしても、とても読めたものではないだろう。元々そう踏んでいたのだ。

だが彼女の手元には、夥しい程の文字の羅列が並んだ紙が、ぎっしりと積まれている。

真っ白の用紙は、見る限りあと数枚だけ。
その内容に文句を付ける必要が無いのは、遠めから見ていても十分に分かる事だ。

こういうところだ――そうパロムは思う。

才能はあると断言できる。
そもそも何の才能も無い人間がいくら切羽詰まっていたからといって、あんな短期間で高度な魔法を操れなんてしない。

だが彼女は己を過小評価しているのか、絶対にそれを認めない。ましてや慢る事など絶対に無い。
そして、自分に出来る努力はどれだけだって惜しまない。

だからこそ、怖いと思う。

いつか自分なんて追い抜いて、遠い所へ行ってしまうんじゃないかと。

いや、実はもう既に追い越されているのかもしれない。
あの背中を追い掛けているのは――本当は、自分なのかもしれないと。


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