ごめんなさい、と謝るリディアの頭を、セシルがよしよしと優しく撫でた。ローザも慌てて傍に駆け寄ると、泣きじゃくるリディアをあやしながら「ごめんね」と申し訳なさそうに謝罪を繰り返したのだった。 エッジとカインも罰が悪そうに顔を伏せる。こうなると、もう何も言えなくなってしまう訳で。いつまで経っても、泣くリディアにはどちらもめっぽう弱いのだった。 「……で?結局、どうすんの、その本」 岩影に隠れて事の成り行きを見守っていたパロムが、ようやく終わったかと顔を出してつまらなそうに声を上げる。微妙に逃げ遅れたのか、彼のお気に入りの縞模様の服はローザの矢により所々破れていた。 「欲しいなら、やるぞ」 「いるかっ!」 エッジが真顔で本を差し出すと、パロムは血相を変えて床に叩きつけた。 ローザはひょいとそれを拾い上げ、ようやく落ち付いたリディアに向かってにっこりと微笑みかける。 「リディア、燃やしてくれる?」 「うん。あ、バハムート、呼ぶ?」 「エロ本一つ燃やすのに、幻獣神を呼ぶんじゃねぇっ!」 ぎゃあぎゃあと喚き続ける声が、いつまでも洞窟内にこだまする。緊張感の欠片もないな、とカインは肩を竦めてみせたが、それもまたいいかと思い直した。 セシルを見れば、隣で穏やかな笑顔を浮かべている。何年経っても変わらない、何年会わなくても決して変わることのないこの関係が今はひどく懐かしく、心地良く感じられた。 ふと気付けば、セシルもカインを見つめていた。 二人はしばし顔を見合わせた後、どちらともなく笑い声を零し始める。 声を上げて笑い合う二人の様子を不審に思い、エッジとリディアとローザは怪訝な表情で彼らを振り返った。 諸悪の根源が何を楽しそうに――そう毒づこうと思ったエッジは二人の顔を見た途端に言葉を飲み込む。リディアとローザも共に面食らったように驚き、しばしその場に固まった。 ――二人の顔は非常に楽しそうで、それは久しく見たことのない、心からの笑顔だったから。 「……何だ?あいつら…」「うーん……きっと、楽しかったんじゃない?」 「ふふ……そうね」 穏やかな空気が流れる。それは随分と長い間感じたことのない、懐かしい時間。 どんなに道が分かたれたとしても、結局自分たちはここに戻ってくるのだろうと確信にも似た想いを胸に、束の間の休息は幕を閉じたのであった。 end. |