しかしそれはエッジに限った事ではなかった。 その麗しい美貌と落ち着いた物腰で、淑女の模範とも表されているローザの豹変した姿に、初めて目の当たりにした子供達は肩を竦めて怯えている。慣れているセシルはにこにことあくまで穏やかに、カインは巻き込まれないようにそっと隅へと避難をした。 「お、おいリディア!お前一体何処からこれ見付けたんだ!」 いわれのない誤解を解こうと、エッジはリディアに必死で問い掛ける。このままでは身の危険があるどころか、下手したら死んでしまうかもしれない――だらだらと冷や汗を流すエッジにリディアはきょとんとしながらも、床に散らばった物の中から一つの袋を指し示す。 「あ、セオドアの荷物の中だよ」 そして上がったのは、意外な名前。 一瞬沈黙が訪れ、全員の冷たい眼差しがセオドアに注がれた。 「……セオドア……!」 「ち、違う!違うよ!」 ローザの怒りの矛先がセオドアへと向かう。エッジへの怒りよりも静かに、だが遥かに倍増をした状態で。元々泣きそうな位怯えていたセオドアは、ぶるぶると震えながらも懸命に首を横に振った。それはもう、見ている側が可哀想になる程に。 「はは、セオドアもそんな年頃になったのかあ」 「セシルっ!何呑気なこと言ってるのよ!セオドア!どういう事なのかきちんと説明しなさい!」 淡々と微笑ましく見守るセシルに、ローザは怒りの声を上げる。セオドアは初めて見る母親の形相に怯えながらも、震える声でたどたどしく弁明を始めた。 「あ、あの、その……カインさんが、一応持っとけって……」 「カインですって!?」 きっとローザが睨み付けると、カインはびくりと身を震わせた。自分には関係がないとばかりに奥へと身を引っ込めていたカインは、忘れていた記憶を引っ張り出してようやくその事に思い当たる。 あっ、と小さく声を零すと口元を押さえ、言葉を選びながらゆっくりと口を開いた。 「い、いや。宝箱の中にあったから……その、中身を確認せずにだな……」 ――そう。それは正しく、カインとセオドアが持ち込んだ物であった。 まだカインが自分の正体を明かしもせずセオドアと旅をしていた頃、魔物が守っていた宝箱からこの本を見つけたのだ。 しかし何故そんな物を魔物が守っていたのか。不思議に思いながらもしまっておいた物が、今頃になってリディアの手で発見されたと言う訳で。 |