青い大地に、月が降る。

そんな現実離れした事実に対面させられた一行は、差し迫る月を止めるために未知の内部へと潜り込んだ。

襲い来る魔物もより一層の強さを見せ、隠しきれない疲れを少しでも取ろうと休息を選んだものの、焦りと緊張からか言葉を発する者も少ない。静かな時が流れていた――少なくとも今、この時までは。


「――これ、なあに?」


そんなぴりぴりとした空間に、似つかわしくないのどかな声色が響く。
視線を送れば、全員の荷物整理を買って出て黙々と作業をしていたリディアが、高々と一冊の本を掲げていた。

「…………」

しばしの沈黙と、冷ややかな空気が流れる。

その表紙には怪しい風体が覗いており、明らかにいかがわしい雰囲気を醸し出している。リディアが手に持つその本に一番動揺を示したのは、それまで一人静かに瞑想に耽っていたヤンだった。

「ぶふっ……ごほっ!」
「ち、父上!大丈夫ですか?!」
「ごほっごほっ……ち、父ではない!ごほん……」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃ……きゃっ、鼻血が!」

娘であるアーシュラに支えられて、ヤンはすごすごと奥へ引っ込んでいった。
エッジはその光景を乾いた笑いで見送りながら、昔似たような本を発見されて、ローザに散々怒られたっけなあ、などと余裕な回想に耽っていた。

しかし今だに「これなに」ときやがったかこいつは、とエッジが複雑な心境でいると、背後からひしひしと突き刺さるような視線を感じた。振り返れば、シドが同情の眼差しを向けている。

「……お前……案外可哀想な奴じゃったんじゃな」
「……ほっといてくれ」

何処か哀愁の漂うエッジの背中に、全員が哀れみの視線を送った。唯一例外だったのは、意味が分からずに首を捻るリディアと、怒りに肩を震わせ、鬼のような形相で立ち上がったローザであった。

「エッジ……あなたって人は、何年経っても!」
「へっ!?い、言っとくが俺じゃねえぞ!」
「嘘おっしゃい!貴方以外に誰がいるのよ!」

理不尽な、けれども日頃の行いが招いた結果とも言えなくもないローザの怒りを一身に受けて、エッジは必死に弁解をはかる。怯えた顔で後退りをする姿は一国の主のそれとは程遠く、彼を慕う忍者達は何とも微妙な表情を浮かべたのであった。

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