再会してから幾度となく、確かに話したそうな視線を感じてはいた。
だがいかんせん自分には、時間も余裕も無かったのだ。


再び光ったバブイルの塔。

強大な力を持つ謎の少女。

そしてこの飛空挺に乗り合わせている、黒衣を纏った知らない男――

分からないことは山のようにある。そして、急がなければならないような、そんな気がしてならない。

切迫した状況に気ばかりが焦る中、リディアに出会えたのは正に奇跡と言っていい。

少なくとも、心配で胸を焦がす事はない。
守ってやれる、傍に居る限り――

「……あのね」
「うん?」

ようやく発された声は微かなもので、心なしか震えている。
エッジの服の裾をきゅっと掴み、けれども顔は伏せたままで。

いつになく不安げなリディアの様子に戸惑いつつも、エッジは平静を装い、安心させるようにゆっくりと彼女の髪を梳いた。

僅かな灯りに照らされて艶やかに輝く緑の髪は、まるでこの世のものとは思えない程に美しく、うっすらと漂う花の香りが、エッジの鼻腔を優しく撫でる。


「……どこにも、行かないで」


そして呟かれた言葉は意外なもので、エッジは少しだけ目を見開いた。

見上げるリディアの瞳は潤んでいて、真摯な眼差しがエッジの困惑した思考を捕える。

『どうして――』
そんな無言の問い掛けに答えるように、一拍の間を置いた後、リディアは消え入りそうな声で小さく小さく囁いた。

「……怖いの。エッジ、また無茶するんじゃないかって思って」

それは。
思いもよらない訴えに、エッジはリディアを見つめる事しか出来ない。

現に助かったとはいえ、確証も無いままに生きるか死ぬかの賭けをしたのだ。
リディアの心配もあながち杞憂だとは言えないだろう。

けれど。


「――……どこにも行きゃしねぇさ」


けれども。
例え、どんなに困難な状況に陥ったとしても。
絶対に譲れない、確かな想いだけはあるから。


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