【木花】嘘吐きまーくん*

「誕生日おめでとう、花宮」
「で、俺はどこからツッこめばいい?」
花宮は今、木吉によって自分のベッドへ押し倒されている。
本来ならば部屋へ入れるのも躊躇うところなのに、人当たりの良い目の前の男はケーキを手土産にいきなり家へ来た。何も知らない母親は仲の良い友達だと疑いもなく家へ上げ、買い物へ行ってしまった。
餌にされたケーキは無残にも部屋の隅に乱雑に転がされている。
「何言ってるんだ?突っ込まれるのは花宮だぞ?もしかして花宮も挿れたいのか?そうだよな、男だもんなぁ……困った。俺も花宮に挿れたいんだ。うーん……当番制とかっ……ッ」
「死ね」
一人勝手に話を展開する木吉の左膝を花宮が思い切り蹴りつけた。テーピングの上からでも本気で降り下ろされた踵は傷に響いてうずくまる。
花宮はその隙に逃げ出そうと体を捩るが、圧倒的な体格差の前には無意味だった。
「離せ」
「ったた……それは無理だな。離したら逃げるだろ?」
木吉が痛みに耐えつつ、いつもと同じ様に笑う。
「たりめぇだ、変態」
冷たく言い返しても笑顔のままで真っ直ぐに見つめてくる。
花宮は視線を逸らしたかったが、一度合ってしまうと思考も体も固まって何も出来なくなった。
「誕生日おめでとう」
もう一度正面から言われて赤くなる花宮の顔に、ゆっくりと木吉の顔が近付く。何をされるかなんて分かりきっていて、でも動けない花宮はせめてもの抵抗に目を閉じた。
「ンッ」
優しく当てられた唇。間近で感じる他人の匂い。
不快でしかないはずなのに、何故か心地良く感じてしまう自分の感情を分からないでいた。
「可愛い」
「ざけんな……ッ」
離れた唇が自分には似合わない言葉を吐いて目を開ける。
そこには花宮の予想よりずっと近い位置に、それこそ吐息の掛かる距離に木吉の顔があって思わず息を詰めた。
「花宮は可愛いよ」
「そーゆーのはオンナに言ってやれ。気持ち悪ィ」
やっとの思いで固まっていた顔を横へ逸らす。視線の先には木吉の大きい手のひらに繋ぎ止められた自分の手が見えた。
恋人同士がするように指を絡めて繋がれた手を、花宮はまるで張り付けにされた標本の様だと思う。
「俺は花宮以外を可愛いと思わないよ」
顔を逸らせた事で露わになった首筋へ木吉が顔を埋めた。
「ふはっ!……キチガイ」
「お前が手に入るなら気が狂れても構わないな」
穏やかに言われて花宮は抵抗すら面倒になる。
大人しくなった花宮に気を良くした木吉が、首筋から鎖骨にかけてを舌先でなぞった。我慢していても僅かに震える体に木吉の口元が緩む。
「この部屋はどこもかしこもお前の匂いがする」
ぽすんっと花宮の枕に顔を埋めた木吉が呟いた。
「俺は部屋にアンタの匂いがして不快だぜ」
顔を顰めて真横へ視線を移せば、ふわふわとした茶髪が視界に入る。まるで大型犬に懐かれたような気分で思わず苦笑した。両手が自由なら、うっかり撫でてしまいそうだ。
「俺さ……こんな状況で冷静でいられる程、大人じゃないんだよな」
「なっ!?」
花宮の太股に木吉の股間が押し付けられる。花宮が呑気な事を考えている間に木吉の劣情はどんどん膨れあがっていた。服の上からでもはっきり感じる熱に花宮の顔が紅潮する。
「はなみやぁ……」
「ンッ!」
木吉は枕から顔を上げ、花宮の首筋に吸い付いた。
直接響く色気を孕んだ低音に花宮が震える。
「だ、だいたい俺の誕生日だろ?んでアンタが良い思いすんだよ」
体を起こし、きょとんとした顔で自分を見る木吉に、花宮は直感する。無駄だ、と。
「そうか……じゃあ満足させてやらないとな!」
数秒止まって思案した木吉の答えは予想通り期待とは真逆だ。思わず溜息を吐いた花宮が諦めていつもの仮面を被る。

「俺、初めてだから……優しくしてね?」
繋いだ手をキュッと握り返し、上目遣いで頬を染めた愛しい男のしおらしい姿に木吉の胸が高鳴った。
「は、花宮……」
「なぁんて言うわけねぇだろバァカ。精々楽しませろよ、ホモ野郎」
期待を裏切るように口元を下品に歪め、足先で木吉の股間を撫でた。
「綺麗だな……」
当の木吉はそんな挑発も気にせずに足を掴み、甲に恭しく口付ける。
「ッ……」
視覚的には支配しているように映るのに、実際は爪先まで全てを支配されているような感覚で花宮は目眩がした。





「なぁ、花宮」
「ンッ………ぁ……な、に?」
呼び掛けに、花宮は枕から顔をずらす。木吉が赤く腫れ、涙に濡れた目尻にキスを落とした。
丁寧すぎるほど時間をかけて慣らされたが、本来と異なる使い方をされて限界まで拡がった入り口はピリピリと痛む。胎内も、内臓を直接押し上げられるような感覚と吐き気で酷い有様だ。指で慣らされている時こそ、前立腺による快感があったものの今は程遠く、花宮のペニスは萎えていた。
「嘘でも良い。好きって言ってくれ」
「ッ……な、にそれ……」
耳元で囁く声は甘く、毒のように脳へ直接染み込む。
「今更だし、こんな状況で言う事じゃないんだが……」
木吉が体を繋いだままで花宮を抱き締める。
「お前が俺を受け入れてくれて嬉しかった。付き合ってくれて本当に良かった」
花宮から木吉の顔は見えないが、きっといつもの、あの太陽のような笑顔をしているだろうと容易に想像出来た。
鉄心と謳われる彼の心が自分一人に向けられている事を花宮は嬉しいと同時に、怖いと感じる。この男に溺れ、自分の牙が抜けてしまうのではないかと。今でも気を抜けばすぐに広い背中へ手を回し、嫌と言うほど好きだと伝えたい。
「ふはっ!あんたが勝手にストーカー紛いのコトしただけじゃねぇか」
それを阻むのは花宮の悪童たる好奇心とプライドだ。
この実直な男を本気で愛せば愛すほど壊して裏切りたいと思う。
「逃げんのも疲れんだよ。分かれ、バァカ」
「そうか。それでも良い。今はそれで充分だ」
今は、という単語で鉄心に諦める気は元より無いと再確認した。このしつこさに比べたら自分の意地など子供騙しに思えてきて、花宮は笑う。
「頼む、好きって言ってくれ」
「チッ……リップサービスだかんな。調子ノんなよ」
「ありがとう花宮!!」
「ンッ!バ、カ……きゅ、に、うごくな……っ」
ぎゅっと強く抱き締められ、弾みにナカを刺激された花宮が呻いた。
「あ、悪い」
ハッとして体を離した木吉と目が合う。
花宮は期待に満ちた視線が恥ずかしくて、目を伏せて深呼吸した。
「す、き……ヒァッ!」
言うと同時に胎内のペニスが膨張する。急に最奥を抉られて花宮の腰が跳ねた。
「っ……く、ぁ…………ッ……」
太くなったモノをずるずると引き抜かれ、圧迫感が無くなると同時に排泄をするような感覚に慄く。
「花宮……」
呼びかけに薄目を開けると木吉の男らしい顔があった。
普段の人懐っこい笑顔ではなく、荒い息を吐きいて情欲に満ちた目で花宮を見つめる。
「もっと、言って」
男の色気に満ちた声で花宮の下半身に疼きが走った。
「ぁ……す、き……ッ!ア、ァァッ!」
浅いところをぬちぬちと捏ねていたペニスが奥へ入って前立腺を掠めた。
「もっと」
何度もしこりを刺激され、萎えていたペニスが芯を持ち始める。
「ん、ぁ……ス、キ……んっ……ふっ……す、き……」
言う度に良いところばかりを突かれ、花宮の目には痛みとは違う涙が溢れた。
「かわいい……花宮……好きだ。大好き」
木吉は零れた涙を舌で掬い、何度も好きだと囁きながら体中へ口付ける。
「す、き……ャ……ァッ……ンンッ!!」
さっきと同じように動かされている筈なのに、もう痛みは無くて快感ばかり得た。
木吉が触れる部分全てが気持ちよく、繋がったところから溶けてしまいそうな感覚に陥る。
「ンッ……き、よし……ッ……ァ」
「ん……なんだ?」
とうとう首に腕を回し、忌々しい男の名を呼ぶ。
「ぁ、あい、して……るっ!……っ、ぅ……ぁ?」
わけねぇだろ、バァカ。
そう続けるつもりだった。
「花宮……ッ」
「ぅそ……ぁ……ナ、カッ……」
続けるはずだったのに、言葉は抱きついてきた木吉の逞しい体に飲み込まれ、一番深いところに熱い飛沫を感じた。
「ごめん、イッちゃった……花宮があんまり嬉しいこと言ってくれるから」
「ちがっ……ッ」
否定しようと顔を上げると、木吉が涙を浮かべて笑っていた。それは全く裏の無い、純粋な感情で何も言えなくなる。
そんなものは俺に向けるべきじゃない。俺に向けてはいけない。俺は応えてはいけない。
花宮は何度も自分に言い聞かせるが、そんな理性を吹っ飛ばす程、真っ直ぐに向けられた感情に視界が滲んだ。
「泣くな……お前が泣いたら、俺はどうすればいい?」
「ア、アンタのせいだっ……」
目元をシーツで乱暴に拭い、自分がされたと同じように木吉の目尻に口付けた。
「……ッ!花宮、あまり煽るな」
「あ?バッカじゃねぇの!?って……ンアッ!」
木吉のペニスは射精したばかりなのに花宮の胎内で再び固くなる。
「今度はきちんと花宮を満足させないとな?」
「っ、ん!バ、カ………ァ」
笑顔で足を抱え直した木吉に、花宮は悪態すらまともにつけなかった。




「あー……ホント最悪」
「ん?どうした?」
結局花宮が満足するよりも、木吉が満足するまで何度も抱かれた。
その後も無理矢理一緒に風呂へ入れられ、現在進行形で全く離してもらえない花宮が溜息を吐く。
「どぉすんだよ、コレ。跡付けまくりやがって。洒落んなんねぇ」
木吉の足の間に座った花宮が、Tシャツの襟元を引っ張った。そこから覗く白い肌には無数の鬱血が残る。
「花宮は色が白いから、良く付くな」
「死ね」
悪びれなく言う木吉のわき腹を花宮が小突いた。
「死にたくない」
うずくまりながら木吉が花宮の首に顔を埋める。
「こんな幸せなのに死ぬなんて勿体ない」
「ふはっ!今が絶頂ならよぉ……後は落ちるだけだぜ?」
花宮は木吉の背中に身を預け、意地悪く笑う。
「お前がいるなら、それで充分だ」
「んで俺が離れねぇって言い切れんだよ」
「俺が離さない」
「…………はいはい。そぉですか」
「ん?顔が赤いぞ?」
顔をあげた木吉が赤く染まった耳朶を食んだ。
「気のせいだ。死ね」
暴言を吐きつつもピクッと肩を震わせた花宮に、再び木吉の欲望に火が点る。
「花宮……」
「あ?」
「好きだ」
「バァカ」
体へ手を回してくる木吉へ言い放つ口癖と、歪んだ口元。
いつもと同じ仕草だが、数時間前とは明らかに異なった空気を纏っていた。





花宮くんはセックスの時に気持ちよくして貰えるって大義名分を手に入れて、やっと木吉に好きって言えるようになるような感じで!!
そのうち、日常でも好きって言える日が来ると良いですね。
木吉、調教がんばれ。



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