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※死ネタ ※転生





今も昔も、私には仲間がいた。
人類最強なんて呼ばれていた頼れるリヴァイ兵長、同じ女性兵として支え合っていた親友のペトラ、嫌味ったらしいところもあるけれど根は優しいオルオ、明るく気配り上手で兄のような存在だったエルド、冷静沈着で真面目な私達のストッパーだったグンタ。そして後輩にして同じ特別作戦班に所属していたエレン。彼は私の恋人でもあった。

楽しかった日々はいつしか崩れ去り、仲間の多くは命を失った。幸せだったあの頃に戻りたいと何度も願ったけれど、今ではそう思うことも少なくなってきている。
―――理由は簡単、再び彼らに巡り会えたからだ。

リヴァイ兵長…いや、リヴァイ部長をはじめとする私達特別作戦班(仮)は、とある考古学研究に燃えるプロジェクトチーム。考古学、といっても私は二千年前の当時の記憶が薄れながらも存在しているので、よくありがちなロマンだとか何とかはまったく感じていなかった。ちなみにロマンを語っていたのはオルオ。彼の幼馴染みであり同期であるペトラからは相変わらず冷たい視線を頂戴していた。

今、昔の記憶があるのは私だけである。実は出会った当初は全員それこそ度合いは違ったものの記憶があった。リヴァイさんなんて、ついこの間までたしかにあったのだ。しかし記憶というものはどうやら未練のそれと直結しているようで、六人で慌ただしくも楽しく平穏な毎日を過ごしているうちに、一人また一人と記憶は忘却の彼方へと消え去ってしまっていた。



(それがちょっとだけ寂しい…だなんて、今更誰にも言えないけどね)

「あら、こんなところでどうしたの?ナマエ」

「はっ…大方今日の遺跡調査で緊張してるんだろ?何でも今までのとは比べ物にならないくらい重要なモンらしいからな」

「莫大な資金も組み込まれているしね……ってアンタねぇ、遺跡に優劣なんてあるわけないでしょ!」

「ぐ…だってよペトラ、だからナマエもこうして緊張して一人佇んでたんじゃねぇか」



違うわ阿呆オルオ、と返したいのはやまやまだが、あいにく"緊張してる"の一点のみは当たっていたので曖昧な返事をしてさっさとその場を離れた。後ろからペトラとオルオの口論が聞こえてきたが、今は気にしないことにする。



「……らしくねぇな、ナマエよ」

「そんなにいつもと違いますかね…私」

「ああ。いつにもまして辛気くせぇツラしてやがる。何があった?」

「…いえ。ただ…まだ会えないから、ここで偶然再会できたりしないかなぁと」

「?」



記憶を失ってしまったリヴァイさん達に今更言ってもわからないだろう。元リヴァイ班のメンバーで私だけが未だに記憶を失くしていないのは、間違いなくエレンのせいだ。エレンに会いたい―――それが未練となり執念になっているのかもしれない。このままじゃ私は死んでも死にきれなくて、化けて出てきちゃいそう。

そんな私の気持ちを誰かに伝えることは叶わず、第4回遺跡調査が始まった。しかも今回の現場は旧本部があったところというのだから驚きだ。昔に少しでも触れられる機会ということで、気合いが入らないわけがない。
そんなはずないのに、ここでエレンに再び会えるような予感さえしていたのである。だって今日は、エレンの誕生日だから。



「ペトラとオルオ、エルドとグンタ、俺とナマエで三手に別れる。慎重に進み、各自対処し難い物を発見したときにはこの場所に戻ってこい。いいな?」

「はいっ!!!!!」

「よし、行くぞナマエ。遅れたらそのまま置いていくからな」

「了解しました!リヴァイへい…部長!」



―――そう勢いよく返事をしたものの、むしろあれがフラグになったんじゃないかと思うぐらい綺麗にはぐれた。というか置いていかれた。
どの部屋もどの置物も懐かしくてあれこれと目を巡らせていたら、あっという間にリヴァイさんの姿は視界から消えていた。なんてこったい。

リヴァイさんを探すか元いた場所に戻って皆を待つか暫し逡巡したが、結局迷子になることはないだろうと自分で勝手に調査を続けることにした。



「……あ、これ…ウチの班のお掃除セットじゃ…うわぁ懐かしいな…」

「………ナマエ、さん?」

「………………え、……エレ…ン…?」

「ナマエ…ナマエさんなんだよな?!俺のことも覚えてるんですか?!」

「あ、あわ…わ……エレン…本当に本物のエレン?!」

「そうですよ!……やっと、会えましたね」



そう感慨深げに呟くように告げるのは、間違いなく私が愛したエレン・イェーガーそのものだった。よかった、よかった!彼も私達と同じように再び生まれ変わって、そしてこの世界に生きていたのだ…!
今まで押し込めていた感情が、泡が一つ一つ弾けるように生まれでてくる。



「エレンもちゃんとこの世界にいたんだね…!よかった、私ずっと会えないかと…」

「…あ、はい。そうですね…俺も会えないかと…」

「……?…エレン、よく調査兵団のジャケットとかブーツとかそのまま持ってたね?ってかなんで今も着てるの?」



エレンは私の記憶にある姿そのもので、だからこそ違和感をおぼえた。転生以前の装飾品なんて、持っている方がおかしいだろう。
彼は静かに項垂れた。何も返事は返ってこない。



「な、なんでこんなところにいたの?ここは私達みたいな許可を貰った人しか入れないはずだし…ねぇ?」

「………………ずっと、会いたかったから、です」

「………エレン?貴方……もしかして…」

「………………」

「ねぇ、黙ってたら…わからないよ…お願い…、嘘だって言ってよ…ねぇってば…!」



最初に会ったときのお互いの興奮やら感動は今や跡形もなく消し飛んだ。俯くエレンの表情はうかがえない。

―――ごめんなさい。

そうポツリとこぼされた言葉の意味は、一つしかなくて。
私が言っている「ずっと会いたかった」と、彼が言っている「ずっと会いたかった」は重みが違うのだと気づかされた。"ずっと"の含む年月が格段に違っていたのだ。



「……ずっと、待っててくれたの?」

「…………………はい。ここで、皆さんを、貴女を、ずっとここで――――待っていました」

「なん、で……そんな……?」

「怖かったんです…。ペトラさん達も死んで、兵長も死んで、ナマエさんも死んだ。だから俺も早く死にたかったのに…死にたかったはずなのに…死ねなかった。精神的にも、肉体的にも」



必死に言葉を口から押し出すようにしてポツン、ポツンと告げる彼の姿が滲む。泣きたいのは、私じゃなくてエレンの方なのに―――……。

要約するとこうだ。
エレンは私達と違い巨人として生きている。それが死後も何らかの影響を及ぼすのではないかという周りの憶測を何度か耳にして、一人で悩んでいたそうだ。その精神的な負担が彼の巨人としての能力に影響を及ぼしてしまったのか、エレンの肉体は衰えることもなく二千年前からこうして生き続けているのだという。巨人化はあのときから試していないので、今も出来るかはわからないと言う。



「俺、やっぱりどうしてももう一度ナマエさん達に会いたかった。だから今日まで一人でも生きてこられたんだ」

「…そうなの。じゃっ、じゃあさ、これからは私達と一緒に生きていこうよ!皆はもう記憶ないんだけど、私がなんとかするから…!」

「嬉しいお誘いですけど…それは、出来ません」

「なん、で?」

「見てください、俺の体。なんかホラ…消えかけてるように見えません?」



わからない。目の前がぼやけていてわからない。土埃にまみれた袖で何度も目を拭うけれど、涙は溢れてきていて。今はただあの日と同じように輝いている彼の琥珀色をかろうじて捉えられるだけだ。
「せっかく会えたのに、またさよならなの?」―――そう言いたいのに、言葉にならない嗚咽だけが口から漏れ出てくる。エレンはいつの間にか、微笑んでいた。こんな綺麗な、何か憑き物が落ちたようなさっぱりとした彼の笑みは、二千年前も見たことがなかった。



「やっと、死ぬ覚悟が出来ました」

「そんな…そんな覚悟いらないよっ…どうして私と会ったばかりなのにッ……!」

「貴女と会えたから…ですよ、ナマエさん。死ぬ覚悟と言ったけど、それは言い換えればまた…」

「……また?」

「俺と貴女は必ずまた出逢える…そう信じる勇気を持てたということですから」

「……う、う、…ばっ…ばかあっ!…エレンのっ…ばかあっ!」

「ちょ、ふ…ふふ、子供みたいに泣かないでくださいよ」

「もうエレンの方がずっとお爺ちゃんだよ!ばか!!今日また一つ年取っちゃったしね!」

「………!俺の誕生日まで覚えててくれたんですか?…有難うございます、ナマエさん」

「ほんともう…誕生日が命日だなんて笑えないなぁ…!」



そうですよねと言ってカラカラ笑うエレンは、もう巨人への憎しみだけを糧として生きている人間には見えなかった。その姿は昔よりもずっとずっと、15才いや16才の青年らしく見えたのだ。
私が滲んでいると錯覚していたエレンは、本当に滲むように消えかけていたらしく、その姿はもう半透明になっている。もうすぐ、消えるのだと実感させられる。



「……エレンっ…また、また絶対…会おうね!」

「はい、約束します!」

「…恋人、その時まで作らないからね!」

「…作ったとしても、ナマエさんは俺が奪い返しますから大丈夫です!」

「エレンっ…エレンっ……、大好きだよ!ずっと、ずっと!」

「…………………ナマエ!!」

「え?……んむ?!」



そうしてエレンは、笑いながら光に包まれて消えた。私の唇に微かに体温を残していって。
「大好きだよ」って言い返す代わりに、彼は最高の贈り物をくれたのだろう。…ってすっごい恥ずかしいんだけどね。

私は自分の唇に触れて、涙が枯れるまで泣いた。人目を憚らずに泣いた。本部内に響いていたから、きっと誰かに聞こえていたかもしれない。それでも私は泣いた。じんわりと残るあたたかさが、彼の想いを表しているようだったから。



ありがとう。そしてさようなら、エレン。
絶対に忘れない。絶対に二人でまた笑いあえる日が来るから。―――貴方もそう、信じてるよね?
どうかもう一度、愛しいあなたと巡り逢えますように。

次はきっと、再会のキスで。


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