※現パロ あーもうやっちまった。俺はどうしようもない、屑男だ。畜生。消えてしまいたい。そんなモヤモヤとした気持ちを抱えて少一時間。俺は公園のブランコでゆらりゆらり揺れていた。まるで今の俺の心情みたいだ。なんつって。 いやいや、そんなどうでもいいジョークを言っている場合じゃない。思い出すんだ。エレン・イェーガーよ。何故こんなことになったのか。 俺とナマエは大学で知り合って、まぁ色々とあって付き合い始めた。学科が違ったのにナマエと知り合ったのは、ナマエがアルミンと同じ学科を専攻していたからだ。そこはアルミンのお陰だと思っている。 重要なのはここからだ。俺の学科ではレポートを提出しなければならず、その上バイトもあったから、結構忙しかった。当然、学科の違うナマエとは暫く会えなかったし、俺が忙しいのを知っていたからか、向こうからも特に連絡はなかった。そこは気を使わせて悪かったと思っている。俺は器用じゃないし、目先のことしか考えられない癖があるから。課題が終わったら、あいつの好きなケーキ屋にでも行って何か奢ってやろうと思った。 異変に気付いたのは、それから直ぐだ。 時たま、大学でナマエを見掛けることがあった。だが、その殆どは何故か男といた。アルミンや他の同じ学科の奴らなら分かる。それなのに、明らかに学科の違うジャンやライナーともいた。それが普通に話しているだけなら良かった。俺も話に交ざろうと近付くと、目に見えてナマエは慌て始めた。そして、そのまま何処かに一人で消え去ってしまう。それの繰り返し。 アルミンから常日頃、「エレンは鈍感だよ」と言われている俺でも分かる。いや、俺自身はそこまで鈍いとは思っていない。そうアルミンとミカサに訴えたら、双方目を反らしやがった。畜生。俺はそんなに鈍く見えんのか。 脱線した。話を戻そう。 要するに、こっちがよく分からないのに急に避けられては気分も悪くなるわけで。もやもやした気持ちで過ごしていると、ナマエから珍しくメールが来た。開くと 『今日、会えないかな?』 という内容で。久しぶりに会える!と思ったから、それは直ぐに返信した。その時は、頭からそのモヤモヤが綺麗に吹っ飛んでいた。 ナマエは此方に上京してきたので、一人暮らしをしている。寮に入らないのかと聞けば、ずっと学校の施設にいると休んだ気にならないという返答が返ってきた。まぁ、分からんでもないが。 道中でケーキやら飲み物やらを買い、ビニール袋をがさがさと音をたてながら向かった。駅から直ぐ近くにあるナマエのアパートには、10分くらいで着いた。インターホンを鳴らせば、ご機嫌なナマエが満面の笑みで出迎えてくれた。その笑顔を見れただけで、心にじーんとくるものがあった。 ナマエの匂いがする部屋はこじんまりとしながらも片付いている。ナマエに出された温かい紅茶を飲みながら、久しぶりに沢山話をした。課題やら教授についてやら。話は尽きなくて本当に楽しかったんだ。 いつもならさらりと聞き流せる筈なのに、前述のようなことがあったからか俺はひどくイラつきながらナマエの話を聞いていた。しかも顔を赤らめて話すから、俺の苛立ちをピークに達した。 「そんなに他の男と話すのが楽しいなら、そうしてろよ」 「…え?」 しまった、と内心思ったが飛び出た言葉はもう止まらない。気付いた時には、部屋は重い沈黙へと変わってしまっていた。傷付いたナマエの顔を見ると、今更罪悪感に襲われてそのまま飛び出してしまったのだ。 「俺って、こんなに馬鹿だったんだな…」 自嘲気味の乾いた笑いしか出てこない。何故かと言うと、勢いで出てきてしまった俺は、ナマエの家に財布とスマホを忘れてきてしまった。ださいという言葉以外が見つからない。折角会えた日に限って、とんでもないことをやらかす。俺には運がないんじゃないかと思い始めた。 ただ、何時までもぐだぐだと此処にいても埒があかない。早くナマエの家まで戻って謝らないと。 「………よしっ」 深呼吸を一つしてベンチから勢いよく立ち上がる。と、公園の入り口から誰か入って来て、俺は目を見開いた。 「ナマエ…」 「エレンったら、こんなところにいたんだね」 もう、とナマエはちょっと拗ねているみたいだった。 「はい、スマホと財布。大事な物なんだから忘れちゃ駄目でしょ」 「…怒ってないのか」 あんなガキくさい態度を取ってしまったのに、ナマエは気にしている様子もなく笑いかけてくれるから、こっちが恥ずかしくなる。 「ううん。エレンが怒るのも当たり前だなって思ったから」 「え」 「だって、エレンが私と全然話してくれないのに、他の女の子とばっかり話してたら妬いちゃうもん」 えへへ、と照れもせずに言い切るナマエは本当に可愛い。こう、何か胸に来るものがあった。だから思わず、その細い身体を抱き締めるとナマエも笑って抱き締め返してくれた。 「あのね、エレン。私が他の男子と話していたのはね、エレンの好みを聞こうと思ったからなんだ」 「好み?」 「だって今日は、」 「俺の、誕生日だな」 「そうそう」 3月30日。それは俺の生まれた日だ。俺はそこまで自分の誕生日を気にかけたことがなかったので、よく前日まで忘れていた。ということは多々あった。 だが、ナマエの謎の行動の原因が俺の誕生日の為だったなんて。純粋に嬉しいし、妬いた自分が子供っぽく感じて余計に恥ずかしい。抱き締める力を強めると、痛いよーと笑いながら返してくれる。 「あ、エレン。この態勢ちょうどいいからそのままでいて」 「? ああ」 言われた通りにしていると、首にひんやりとした感触が触れた。 「こ、れ」 「エレンの誕生日のお花なんだよ」 そう言うとナマエは少し俺から距離を取って、えへへと笑った。 首に掛けられたそれは、桜の花をモチーフにした、銀色のネックレスだった。大きさは爪より少し小さいくらいで、少し女性らしいデザインだった。 「エレンへの贈り物を考えるのって、大変だったんだから!」 「そうなのか?」 「そうだよ!色んな人に聞いても、エレンは物欲ないからなーとしか答えられなかったんだよ」 「なんか…ごめん」 「謝ることじゃないんだけどね」 まぁ確かに、俺は同世代の男に比べれば物欲は少ない方だった。 「だから悩んだんだけど、私達ってまだお揃いのものを買ってなかったじゃない?」 「あ、だからこれを…」 「そういうこと…って、うわっ!」 こんなにも優しいナマエが可愛いくて、衝動的に強く抱き締めた。 「……ずりぃなぁ」 「え?」 「先、越された」 ペア物という、いかにもカップルらしい物は、俺から贈りたかったのに。ナマエは気配りが出来て、誕生日花をモチーフにしたネックレスをプレゼントしてくれて、大人っぽい。それに比べて、用意が遅くい上にガキくさくて、俺は本当に駄目なやつだ。 でも俺は今日誕生日。それならまだ多少のガキくささも神様というやつは目を瞑ってくれるだろう。 「なあ」 「なあに?」 「おめでとう、って言って欲しい」 ナマエの顔を見つめながら頼むと、ナマエは少々恥ずかしがりながらも、俺の耳にそっと唇を寄せた。 「お誕生おめでとう、エレン。大好き」 「ああ、俺も」 そろそろナマエの家に帰って、すっかり遅くなってしまった夕飯を食べて、ナマエが用意してくれているケーキを食べたい。だが、まだ俺は抱き合っていたいのだ。単に俺の我が侭だが、ナマエがとことん甘やかしてくれる。それならば、まだ甘えてもいいだろう。 BACK |