main | ナノ

※現パロ





「もう!エレンなんて知らない!」

そう叫んで持っていた物を投げつけて家を飛び出した。肩で息をするほどに走り振り向いたら。

「……」

エレンはそこにいなかった。追い掛けてきてくれるだろうなんて自惚れていた私はその瞬間後悔に襲われて今すぐにでも引き返したくなる。……ダメ、戻らない。戻りたくない。私は肩を落としながらも自分の家に向かって歩き始めた。

職場の後輩のエレンと付き合い始めたのは三ケ月前のこと。好きです、と言ってくれたエレンは顔を真っ赤にしてそれでも私をまっすぐに見てくれて。年下の男の子と付き合うなんて考えたこともなかったのに、気が付けば頷いていた。エレンはいつもまっすぐで、愛情表現だってしてくれるし優しい。でもやっぱり、自分が年上であることで悲しい思いをすることだってあるもので。

「エレンくんと付き合ってるんですか」

そう聞いてきたのはエレンの同期の女の子だった。女の私から見てもとても可愛くておしゃれなその子は、入社当初からエレンのことが好きなのだと噂好きの同僚が言っていた。彼女は私の目を見てはっきりとそう聞いた。そのまっすぐな目にどこかエレンと似ているものを感じてしまって、若さ故のまっすぐさに私は目を逸らすことしかできなかった。

「そんなに好きじゃないなら別れてください」

そう言って彼女は去って行く。私は何も言えず呆然と彼女の背中を見つめていた。
その日の夜、次の日がエレンの誕生日ということもあり夜に会う約束をしていたから待ち合わせ場所に向かうとどこか機嫌の悪そうなエレン。おどおどしながらエレンの機嫌を伺う私に苛々が爆発したエレンが言った。

「ナマエさんってさ、自分の意見ねぇの」
「……っ」
「年下に好き勝手言われて言い返すこともできねぇの」

そこで気付いた。エレンは昼間の彼女との会話を聞いていたかそれとも人伝に聞いたか。どちらにせよ私が彼女に何も言えなかったことを知っているのだ、と。何か言おうとしても頭の中はパニックだし口はカラカラに渇いているし私はまたしても何も言えない。エレンははあ、とため息を吐いた。

「……無理なのかもな」
「……っ」
「ナマエさんには大人で何も言わなくても全部わかってくれるような、ナマエさんを守ってくれる人と、」
「……して、」
「え?」
「どうしてそんなこと言うの……!」

気付けば私はエレンを睨み付けていた。ただ、目に涙が溜まっているからきっと迫力なんてものはないだろう。こうやって自分の気持ちをエレンにぶつけるのは初めてかもしれない。

「私、エレンのこと……大好きだから、だから悩むんだよ!私より相応しい人がいるかもしれないとか、若い子のほうがいいんじゃないかとか、好きだから悩むし不安になるの……!」

エレンはただ目を見張って私を見ている。ポロリと零れた涙をぐいっと袖で拭って、私は尚もエレンを睨み付けた。

「エレンじゃなきゃ、意味ないんだから……っ、そんなこと言うならエレンが私のこと守れるような包容力抜群の大人の男になれ馬鹿……!」

支離滅裂なことを言っていることは自分でもわかっている。それでも止まらなかった。私が悪い、そんなこと分かっている。でも初めてだったから。エレンが私を突き放すようなことを言ったのが。やっと気付いた。甘えていたのは私のほう。子どもなのは、私のほうだった。嫌だ、こんなんじゃ捨てられる。いつの間にかこんなに好きになっていて、胸を締め付ける切なさに戸惑いながら私はエレンを見つめた。

「……言いたいことはそれだけ?」

こんな私でも受け止めてほしい、そう懇願する私のことを無視してエレンは冷たく言い放った。ボロボロと流れる涙が頬を伝ってスカートに染みを作る。私は持ってきていた誕生日プレゼントをエレンに投げつけた。

「もう!エレンなんて知らない!」

未だにエレンが追い掛けてきてくれることを期待していた自分が恥ずかしい。ブンブンと頭を横に振って頭をリセットした。でも、一つだけ気に掛かるのは明日がエレンの誕生日なこと。一番におめでとうと言いたい、そう思っていたのに……。

「……、っああもう!」

気持ちが溢れだしてどうしようもなくなって私はその場で踵を返した。その瞬間、後ろから歩いてきていたらしい人とぶつかる。鼻を強打して悶絶しながらも謝ると、そのまま抱き締められた。ええっ、痴漢?!と叫びそうになった時、気付いた。彼の匂いだ。どうしよう、涙が止まらない。愛しい。

「ありがとう、プレゼント。シャツ可愛いな」

よく見ればエレンはさっき私がエレンに投げつけたプレゼントの半袖のシャツを着ていた。春とは言え夜はまだまだ肌寒い。寒いのに、と叱るとエレンは大丈夫だと笑っていた。

「……ごめん、ちゃんと断ってきた。オレが好きなのはナマエさんだけだって電話でアイツに言ったから」

そのせいで追い掛けるの遅くなったけど、とエレンは苦笑いした。そしてまた私をまっすぐに見た。今まで戸惑っていたまっすぐな目が、こんなに愛しい。

「オレ、ずっと思ってた。好きなのはオレだけなんじゃねぇかって。それで今日たまたまナマエさんとアイツの会話聞いて、やっぱりそうなのかって……。だから嬉しかった。さっき言ってくれたこと全部」
「エレン……」
「オレ、頑張るから。ナマエさんのこと全部受け止めて守れるような男になる。だから……」

来年も、再来年も次もその次も、オレの隣で笑って誕生日おめでとうって言って。
耳元で言われた言葉が甘く優しく鼓膜を伝って脳に響く。真新しいシャツに私の涙が染みこんでいく。私は嗚咽を洩らしながらも言った。

「おめでと、エレン……」

嬉しそうに笑うエレンの腕の中で、私は胸いっぱいの幸せを感じていたのだった。


BACK

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -