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※現パロ





光を放つかのようにきらきらと光る瞳。風を受けて揺れるさらさらの髪、凛々しい眉毛、きりっと引き締められた口元。何より、誰よりも大きく強い志と屈強な精神力。それらに惹かれていたのは、いつからだろう。もしかしたら、私が思っているよりずっとずっと、うんと前からなのかもしれない。




「ねえアニ、何がいいと思う」
「自分で考えたら?」
「自分でわからないから聞いてるのー!」

今日は三月三十日。同じ会社で働く、同期のエレン・イェーガーの誕生日。
エレンは同期の中でもひときわ仕事に熱心で、リヴァイ部長から出される仕事が大変なほど燃えるらしく、いつもぎらぎらした目つきで仕事に没頭している。だからといって成績がものすごく良いわけではないが、その姿勢は見習うべきものがあり、いつも隠れて尊敬していた。否、尊敬、ではない。憧れ、これも違う。私はエレンに、確かな好意を抱いていたのだ。

誕生日はエレンが喜んでくれるようなプレゼントをあげたいと思っていた。しかし誕生日が今日だと知ったのは今朝のこと。今朝出勤してからアルミンとミカサがプレゼントを渡しているのを見て知ったのだった。誕生日が今日だったなんて、もっと前から知っておきたかった。今日知ったってどうしようもないのが本音ではあるが、今決めておけば、昼休みのうちに近場で買うことも出来る。しかし何を買えばいいのかわからない。男の人にプレゼントなんてまともにしたことがないのだ。そういうわけで、アニに相談を持ちかけているところなのだった。

「ねえアニー、どうしようー」
「……エレンが喜ぶプレゼント、私が分かると思う?アルミンあたりに聞いてくれば」
「アニの意見を聞きたいの」

アニはため息をついて考えるそぶりを見せると、いくつか案を出してくれた。アニの、なんだかんだ言いながら協力してくれるところが好きだ。

「無難にマグカップとかはどう」
「アルミンがあげてたよ」
「…そういや、エレンは時計を持ってなかった」
「ミカサがあげてた」
「…なら、服は」
「それこそどんなの買えばいいのかわかんないよ。エレンのお気に入りの駆逐Tシャツでもあげる?」
「それでいいんじゃない」
「……でもやっぱりさあ。誕生日プレゼントだよ?」

アニの提案を全て却下する私に、自分で決めろとばかりにアニはしびれを切らしてパソコンの方を向いてしまった。カタカタとキーボードを叩く音がいささか強い気もする。諦めて私もパソコンに向き直った。
しかしプレゼントの事ばかり考えていては進むものも進まない。デスクに項垂れると、コーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。顔を上げると、アルミンがコーヒーを持って来ていた。

「お疲れ様、ナマエ」
「ありがとうアルミン」

受け取って一口すする。ほどよくミルクと砂糖が入れてある。ブラックコーヒーが苦手なことを知った上で配慮してくれたのだろう。そんなアルミンならば良いアイデアをくれるかもしれないと思い、口を開きかけるとアルミンが先に言った。

「ナマエはエレンに誕生日プレゼントあげるんだろう?何をあげるの?」

私の考えを見透かしたような質問にぱちくりとする。その言い方では、私がエレンに誕生日プレゼントをあげるのは当たり前だとでも思っているかのようだ。

「あげるんだろうって…なんでそう思うのよ」
「だって、いつもエレンを見てるじゃないか。てっきり誕生日なんてリサーチ済みかと」

かあ、と頬に熱が集まる。そんなに見ていただろうか。そういうところはアルミンは鋭い。まさか気づかれていたとは。本人は気づいていないから大丈夫だと笑顔を向けてくるが、そういう問題ではない。コーヒーを飲んで誤魔化してみる。

「で、でさ、何がいいと思う?プレゼント」
「まだ買ってなかったの?」
「うん、だって今日知ったもん」

アルミンはへえ、と頷くと、悩む素振りも見せず、にこりとして言った。

「なんでもいいと思うよ」
「なんでもって…」
「気持ちがこもっていれば、なんでも。それにエレンは、ナマエのプレゼントならなんでも喜ぶよ」

確信を持っているような言い方だ。気持ちがこもっていればなんでもいいのはわかるが、私のプレゼントならなんでも喜ぶという言葉の意味がよくわからない。曖昧に頷くと、アルミンはくすりと笑い、書類を出来てる分だけでも提出しておいでよと言い残して去って行った。ハッとしてとりあえず今の時点で出来ていた書類をまとめ、リヴァイ部長のところへ提出に行く。

「リヴァイ部長」
「あァ、書類か。もらおう」
「はい。…あの、リヴァイ部長」

書類を渡した後、腰を屈めて、こそっと耳打ちする。別にやましいことではないし声を低くすることもないが、仕事には関係ない話だし、エレンに聞かれると後で大変だ。

「今日はエレンの誕生日だそうです」
「ほう…で、それがどうした」

リヴァイ部長は椅子を回して私を見た。そうですよね、それが何だって話ですよね。どうしたって訳ではないんですがと苦笑すると、リヴァイ部長は少し考える素振りをして、引き出しを開けた。

「……なら、誕生日プレゼントでもやるか。これをエレンにやって来い」

おお、部長が部下に誕生日プレゼントなんてすごい、と瞳を輝かせる。しかしごそごそと引き出しから取り出したのは、紙の束。まさか、と思いつつおそるおそる受け取る。

「…これ、仕事ですか」
「ああ。…なんだその顔は。エレンにやるプレゼントなんてそいつで丁度いいだろうが。さっさと行って来い」

ああ、こんなサディスティックな上司を持ってしまって、エレンがかわいそうだ。私の上司でもあるのだがそう思わずにはいられなかった。しかしこれでエレンのところに行く口実が出来た、と少し嬉しくなる。
書類を受け取ってその場を去りながら、エレンのデスクを目指す。いつもならばパソコンを睨みつけながらキーボードを叩いているはずのエレンは、今日はデスクで突っ伏していた。

「エレン…?」

声をかけるが、起きない。珍しく、居眠りしているようだった。リヴァイ部長に見つかりでもすれば大変だ。起こそうと軽く肩を叩く。しかしエレンは少し唸って顔を横に向け、変わらず寝息をたてるだけだった。
規則正しく聞こえる静かな寝息、閉じられた瞼。その横顔を見ていると、愛しさが込み上げてきて、途端に涙が出そうになった。理由はわからない。
視界に入ったエレンのデスクの卓上カレンダーには、殴り書きで今日の日付に丸がつけてあった。
三月三十日、今日はエレンがこの世に生まれた日。

「……エレン、」

誕生日おめでとう。そうつぶやいて、頬に唇で優しく触れた。






「エレン、生きてね。あなただけはどうか生きて」
「この残酷な世界で、私の希望はあなただった。ありがとう、そして、」

「誕生日、おめでとう」



ふわふわした眠りの中で見た夢は、知らない場所で変な格好をしたナマエが微笑んだ、もう覚えてはいない懐かしい記憶。淡くて甘い、優しい記憶だった。


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