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※現パロ





猫みたいな人だといちばん最初に思ったのは、いつの事だったか。
その時にはもう気になっていたんだろうと思うと、彼女もなかなか罪深い。
…未だに想いは、伝えられてないけど。



「エレン、作戦をおさらいするよ」
「お、おう」
「エレン、やっぱり私はこの作戦…」
「ミカサはちょっと黙ってて!この間納得したんじゃなかったの?」
「…だけど、」
「ミカサ、俺、お前には応援してほしい」
「わかった、エレンが言うならそうしよう」
「(その素直さがもっとナマエさんに対しても出せればいいのに…)」

3月30日、午後。駅前のファーストフード店で俺とミカサ、アルミンの3人はこそこそと会議中だった。
数週間前から、アルミンが課題やらなんやらの合間に考えてくれた作戦。
それは俺が愛してやまない学校のアイドル、ナマエさんに告白する計画だった。
本当なら俺は彼女に想いを伝える気なんてなかったし、高嶺の花でいてくれるだけでよかったんだ。
だけどひょんなことから話すきっかけが出来てしまって、更に誕生日が1日しか違わない、なんてことも分かってしまって。
…で、そのことを知ったアルミンがやけにキラキラとした瞳で詰め寄って来るから、俺は断るに断れず今日に至った、のだ。
ナマエさんの誕生日は昨日、3月29日。一応おめでとうの言葉はメールで伝えたけれど、やっぱり直接伝えたかったのが本心。そんな俺の心を察したのか、今日になってミカサとアルミンに呼び出された。

「いい?エレン。まずナマエさんはもう少ししたらこの正面の道を通る。最近も委員会の事とかで学校には行ってるみたいだしね。いつも同じ時間の電車に乗るからこの時間なのは間違いない。エレンはさり気なさを装って隣の本屋からナマエさんに突撃だ。それなりに仲良しなんだから一緒に帰る流れになるだろう。…ここから先は主に君の勇気に頼ることになるんだけど…」
「…エレン、大丈夫?出来る?既に頬が少し赤いけれど、」
「…っうるせ、大丈夫だっつの」
「ほんとかなあ…ともかく、その後のナマエさんと別れるまでの間が勝負だよ。降りる駅は同じなんだから、改札を出てから別々になるまでが重要だ…告白するならタイミングとしてはその時だよね。周りが静かな方がいい。およそ無いとは思うけど、ダメだったときそのまま一緒に帰るのはつらいだろうからね。時間としては日没ぐらいだといいよね…うん、多分大丈夫、駅から帰るまでの間ならちょうど夕焼けが綺麗な時間帯のはずだよ」
「アルミン…お前すげーな…」
「え?なにが?」

きょとんとした顔をしてこちらを見る幼馴染がもはや怖い。頭のキレる奴だとは思っていたけどここまでとは。
その隣ではミカサが尚も心配そうにこっちを見ていた。一応さっきとは違って応援モードにはなってくれたみたいだが、今度は俺の顔色にこいつが一喜一憂してるような状況だ。…はたから見たらだいぶカオスだな。

「なあアルミン、ほんとにナマエさん学校行ってんのか?日曜だぞ今日」
「大丈夫だよ、確認は取れてる。忙しいみたいだけど、ご両親の都合でいつも同じ時間に帰ってるみたいだ。だから休み中の今でもこの道を通るはずだよ。」
「エレン、頑張って。きっと大丈夫。」
「………すげえ不安なんだけど。」
「大丈夫だよ、自信もって!エレン!」
「うおー…」

思わずその場で頭を抱えてしまう。やけにアルミンが楽しそうなのも気になるが、正直それどころではない。向こうに座るミカサが慌てているのが気配でわかった。
ふとアルミンがとん、と俺の肩に手を置いたからそっちを見ると、アルミンはさっきの楽しそうな顔をしたまま時計を見ていた。

「そろそろ行っておかないと…」
「え、もうそんな時間かよ」
「エレン、本当に頑張って。私たちはここで見守っているから。」
「上手く行くことを祈ってるよ!」
「おう…行ってくる」

なんとなく胃がキリキリするのは気のせいだと思いたい…アルミンが「これは僕らからの誕生日プレゼント!」とか言ってたけど、だめだったらどうしてくれんだよ…とんだ誕生日プレゼントだよ…
悶々とそんなことを考えている間にあっさり隣の本屋に着いた。ああいっそ、ナマエさんがここに居てくれたら、さり気なさを装って一緒に帰るなんてしなくてもよくなるのに…とか考えながら通りが見渡せる、入り口近くの雑誌コーナーに立った。

「(この辺ならなんとか見えるかな…)」
「あれー?エレンじゃん」
「っえぇええ!?」
「えっそんな驚かせちゃった?ごめん」

不意に背後からかけられた声に驚いて振り向けば、そこにはあろうことかナマエさんが立っていた。手にはすでに会計を済ませたのか、この本屋の袋。

「えっ、ナマエさん、え、なんで、」
「なんで…って、学校行ったついでに本屋に寄っただけ…?だけど。エレンこそ休みなのになんで?」
「あ、えっと、俺は、」

…後になって思えば、突然のナマエさんの登場に俺は柄にもなく動揺していた。そう、それはものすごく。
だからこの後口走ってしまった言葉は、事故と言っても過言じゃないと思うんだ。

「ナマエさんに告ろうと思って、」
「……………………は?」


………あれ、俺今なんて言った?


どうするどうするどうする!?めっちゃ間違えた、えっすげえ心臓バクバクいってる、ナマエさんにも聞こえてんじゃねえのこれ、すげえうるさい、きょとんってしてるナマエさんかわいい、何するんだっけ、じゃなくてどうしたらいいんだこれ、え、やばいいきなりそんなの言われてどうしたらいいかわかんないだろうしひとまず逃げてアルミンに助けを、

「エレン、」
「はいっ!?」

いきなり名前を呼ばれて自分でもびっくりするくらい声が裏返った。びくりと大袈裟なくらい肩が揺れて情けない。こんなんじゃなくてもっと、かっこよく言いたかったのに。
ナマエさんの柔らかい手が伸びてきて、手首を掴まれたと思ったら次の瞬間には引き摺られるように本屋を出ていた。俺よりナマエさんのほうが背が低いから、ちょっと歩きにくい。ナマエさんの長い黒髪が目の前でゆらゆらと揺れている。綺麗だなあ。…ってそんなこと考えている場合じゃねえっての。

さっきいたファーストフード店の前をあっさり通り過ぎても、ナマエさんの歩みが止まる様子はない。ちょっと落ち着きを取り戻し始めて、一体何処まで行くんだ?と不思議に思ったところで駅前にしては人通りがあまりなさそうな路地に入った。やっと手が離れて、くるりとナマエさんが振り返る。俯いたままのナマエさんの表情はわからない。

「…エレン、もっかい聞くよ」
「っはい」
「………なんで、日曜なのに、いたの?」
「それ、は……」

思わず口ごもる。どう答えたらいいんだろう、なんだか雰囲気的に怒られてしまいそうな気がする。もう何を言っても怒られそうな気がしてしまう。
ナマエさんの誕生日だったから?
アルミンに唆されたから?
違う、そんなんじゃなくて、


「…俺は、エレン・イェーガーは、ナマエさんの事が好きです。好きで好きで仕方ないから、想いを伝えたくて、今日ここに来ました。」


……言った。言ってしまった。もしこれで振られてしまったらもうどうしたらいいかわからないけど、後悔先に立たずだ。あとは流れに身を任せるしかない…

「………えと、ナマエさん…?」
「………………っの、」
「え?」
「…えれん、の、ばかっ…!」
「!?えっ、ちょっ、ナマエさん!?」

ナマエさんが何か言った気がして顔を覗き込むと、そこには初めて見るナマエさんの泣き顔があった。女子の泣き顔なんてそうそう見たことねえからどうしたらいいかわからなくてあわあわしてると、ナマエさんがまた話し始めた。

「あたしが…きょう、えれんに、…っ告ろう、と…おもってた、のにっ」
「………………え、」

思ってもみない言葉に今度は俺がきょとんとさせられる。なんだそれ、じゃあ同じこと考えてたのか俺たちは?…気持ちは、同じだったのか?

「きの、うは、ひっく…たんじょうび、で、いろんな人に、いわってもら、って、うれしかった、から…おちこむなら、おわってからに、しよう、と、おもって、て…」
「…っナマエさん、」
「ごめ、こんな、あたしかっこわる、」
「わかりましたから、ちょっと落ち着きましょ?」
「っ!」

えぐえぐと嗚咽を漏らしながら言葉を紡ぐナマエさんを抱き締める。びく、と肩が揺れたのがわかったけど、もう離す気はない。だって俺たちは想い合っていたんだ、これくらい誰も怒らないだろう?
…それから、普段はかっこいいけど泣き虫な彼女の唇に触れても誰も怒らないだろう?

静かに触れた彼女の唇は、少ししょっぱい味がした。


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