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※現パロ





ずっとずっと、この日を心待ちにしていた。
年に一度の、すごく大切な日。
それは大好きなエレンの誕生日で、何度も頭の中でどうしたら喜んでくれるかと、プレゼントは何が良いかと悩みながらこの日を迎えた。
例え好きな物が買えなくなったって、ひもじい思いをしたって、エレンの誕生日を祝う事以上に大切な事なんて無い。
それだけ大切で、大事な事なのだ。
今日と云う日をエレンにとって最高のものにする為に、ずっと前から料理を練習して、ケーキも綺麗に作れるようになって。
部屋のセッティングも、完璧だと自画自賛するくらいで。
後はエレンが来るのを待って、ありったけの気持ちを込めておめでとうと言えれば私のプランは成功…だったら良かったのだが。
「…」
未だ机の上に置かれた綺麗にラッピングされた幾つもの箱。
大きさもまちまちで、中身も全て違う。
そう、私は迷っていたのだ。エレンに渡すプレゼントを何にしようかと。
肝心のプレゼントが決まらなくて、今日と云う日を迎えてしまった。
何が良いかな、これが良いかな、なんて考えながらお店を回ってその度買ってプレゼント用に包んでもらって。
気づけばこの有り様だ。
エレンが欲しいと思う物があれば良いのだが、もし無かったらどうしよう。
サプライズとしてこの日の事を練っていたから、率直に何か欲しい物があるかなんて訊けなかったのだ。
そんな事訊いたら、例え鈍感なエレンでも察してしまうだろう。
だから今こうして綺麗にセッティングされている部屋で、思案していた。
もう直ぐエレンが来るから料理を並べてプレゼントも並べて。
どうせなら全部あげても良いのだが、やっぱりエレンが一番欲しい物を一つだけ、自分でエレンが喜んでくれるような物を理解して選びたかった。
そうこう悩んでいたら不意に鳴る呼び鈴の音。
吃驚して時計を見ると、エレンにこの時間に来て欲しいと伝えた時間だった。
やばい、多分、と言うか絶対エレンだ。
少しの間固まっていると、また呼び鈴が押されて慌てて玄関まで行く。
「ナマエ?居るんだろ?」
「ちょ、ちょっと待って今開けるから!」
ドアノブに手を掛けながら、今テーブルに置かれたプレゼントの数々を頭の中で思い浮かべる。
どうしよう、決められない内にエレンが来てしまった。
こうなったら全てあげてしまうか、エレンに好きな物を選んで貰うか。
どっちにしようか悩みながらドアノブを回してドアを開ける。
「よ、ナマエ」
「うん。エレンいらっしゃい」
私がそう言ってエレンを家の中に招き入れると、ドアを閉める。エレンは靴を脱いで家に上がった。
リビングに辿り着くまでの道程で、プレゼントはエレンに好きな物を選んで貰おうと決める。
これも一つのお楽しみ要素だと思えば、いや、思ってくれたら良いな。
リビングのドアの前に着いて、エレンに「目、瞑って」とお願いをする。
エレンは素直にそうして、その間に私はドアを開いてエレンの背中を押した。
「目、開けて言いよ」
私がそう言うとエレンは目を開けて部屋の中を見渡し、テーブルの上に並べられた料理やプレゼントの箱を見てぽかんとした表情を見せた。
さあ、今日一番大事なこの言葉。言うタイミングは今だ。
「エレン、誕生日おめでとー!」
ありったけの気持ちを込めて、そうお祝いの言葉を口にする。
この日の為にして来た事を無駄にしない為に、少しでも良い日だったと思って貰う為に。
だが、エレンからは何の反応も無い。あれ、もしかして今完全にタイミング失敗した?そう思ってエレンの顔を覗いて名を呼ぶ。
「エレン?」
「…あ、ああ!ありがとな、ナマエ」
「…どうかした?」
「いや、一応誕生日絡みで呼び出されたって事は予想してたけど…。やっぱ実際やられると、すげえ、嬉しい…なって」
エレンは照れくさそうに頭を掻きながら、そう答えた。良かった、ただ単に幸せを噛みしめていただけなのか。そう思うとほっとして、胸を撫で下ろした。
「それに、料理もナマエが作ったんだろ?美味しそうな物作れるんだな、ナマエ」
「なんて失礼な」
「冗談だよ」
ぷっとエレンは吹き出して、私の頭をわしゃやしゃと撫でる。
くそう、こんな事で許してなんか…やらないくらい意思が強ければ良かったのに。それだけで怒りなんて治まって、次のプランへと移行する。
エレンを座らせて、プレゼントを私の前に並べて、こう問いかけた。
「中身は見てからのお楽しみって事で、どれでも良いから好きな物選んでみて!」
「…どれでも良いのか?」
「うん!どれでも」
さて、エレンはどれを選ぶだろうか。
私は包装の柄や箱の大きさでどれが中に入っているか分かるが、エレンには全く分からないだろう。博打みたいな感覚だ。少しだけ私もわくわくしながら、エレンが選ぶのを待つ。
「じゃあ、ナマエ」
「うん、なに?」
エレンに名を呼ばれ、そう返した。
かなりシンプルなお楽しみだが、何か分からない事があったのだろうか。
「…だから、ナマエ」
「…だから、なに」
名前だけ呼ばれても、要件を言ってくれないと分からない。私はエスパーでもなんでも無いのだから。
だからこうして聞き返しているのに、エレンは頑なとして要件を言ってくれない。
「何か分からない事あるの?」
「だから、そうじゃなくて」
「…なに?」
「プレゼント、ナマエが欲しいって言ってんの」
「…へ?」
ついつい間抜けな声が出てしまう。
私はこの並べられた箱の中から選んで欲しいと言ったのだが、それが何故私になるのか。
「…えーとエレン?私はこの中から選んで欲しいって云う意味だったんだけど…」
「でもなんでもって言っただろ?」
「いや、言ったけど…」
確かにそう言った、言ったけど。この中から、という意味も含んでいたんだよエレン。
それに例え私がプレゼントになったって、何をどうすれば良いのやら。
「プレゼント、ナマエじゃ駄目なのか?」
「だ、駄目っていうか…。私何すれば良いの」
「…別に、特には。ただ、一緒に居てくれれば良いんだよ」
それは、エレンへのプレゼントになるのだろうか。私も喜んでしまいそうなシチュエーションだが。
この申し出を受け入れるべきかどうか迷っていると、エレンが思いついたように「ああ」と口にする。
「そうだナマエ、だったらお祝いのキスしてくれよ」
「キス?」
「そ、プレゼントはそれで良いからさ」
そう言ってエレンは自分を指差す。キス、か。改めてそう言われると恥ずかしいが、エレンが望んでいる事だからと近づいて「おめでとう」と言って額にキスをした。
が、エレンはそれに対して不服そうに顔をしかめる。
「…口にしねえのかよ」
「口をご所望でしたか」
「ほら、もっかい」
今度は唇を指差して、エレンはそう言った。まるでそこ以外は許さないとでも言うように。
私は一瞬怯むが、意を決して唇を近づけた。軽く触れるくらいのキス。それだけでもいっぱいいっぱいだ。それでもエレンはそれで満足したのか、「来年も宜しくな」と言って微笑んだ。


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